2018年度ステークホルダーダイアログ (SDGs)

SDGsをテーマとしたダイアログ

KDDIでは、2019年3月、CSR/SDGsコンサルタントの笹谷秀光氏をKDDI本社にお招きし、「SDGsを知り、KDDIが取り組むべきことを考える」をテーマにステークホルダーダイアログを開催しました。KDDIは、これまでもサステナビリティ活動に取り組んできましたが、「豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献する」という企業理念に基づき、新しい中期経営計画においてSDGsへの取り組みを重要課題と位置づけ、これまで以上に持続可能な社会の実現に貢献していきます。

出席者

<有識者>

CSR/SDGsコンサルタント 株式会社伊藤園顧問 笹谷秀光氏

<KDDI出席者>

サステナビリティ担当役員、コーポレート統括本部総務・人事本部長 執行役員 土橋 明
ライフデザイン事業本部ライフデザイン事業企画本部長 理事 新居 眞吾
ソリューション事業本部ソリューション事業企画本部長 理事 藤井 彰人
グローバル事業本部 グローバル事業企画本部長 理事 鈴木 俊幸
コンシューマ事業本部コンシューマ事業企画本部コンシューマ事業企画部 統括GL 根本 学
技術統括本部 技術企画本部副本部長 杉浦 誠
メディア・CATV推進本部長 理事 増田 晴彦
商品・CS統括本部 商品企画副本部長 内藤 幹徳
経営戦略本部 経営企画部 企画3GL 木村 理恵子
コーポレート統括本部 総務・人事副本部長兼総務部長 理事 田中 稔
コーポレート統括本部 総務・人事本部 総務部 サステナビリティ推進室長 鳥光 健太郎

  • 出席者の肩書、役職は、2019年3月末時点、笹谷氏は同年4月伊藤園を退職、現在、社会情報大学院大学客員教授

今、日本企業に求められる「発信力」

KDDI: KDDIでは、「豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献する」という企業理念の実現に向けて、さまざまなサステナビリティ活動に取り組んできました。現在策定中の2019年度からの中期経営計画にも「社会の持続的な成長に貢献する会社」を掲げ、KDDIが目指すSDGs目標を盛り込んでいく計画です。

笹谷: 私が、SDGsに取り組む企業の皆さんにまず伝えたいのは「発信力」の強化です。近江商人には「三方よし (自分よし、相手よし、世間よし)」がありますが、もう一つ、重要な心得として「陰徳善事」をうたっています。読んで字のごとく「徳と善い事は隠す」。この陰徳の美のマインドを持つ日本企業は未だ多くありますが、今や日本もグローバル化し、同質社会の常識は通用しなくなっています。外国人やミレニアル世代の若者など多様性の社会では、とにかく発信が大切です。

事業を通じてSDGsに取り組む上で、重要になってくるのが、マイケル・ポーター教授が提唱した「共有価値の創造 (CSV: Creating Shared Value)」です。2008年のリーマンショックを経て生まれたCSVは「これからのビジネスは社会の課題解決と経済利益を同時に実現してこそ発展する」という概念です。日本でも随分浸透しましたが、実は日本に昔からある「三方よし」と似た考えだと思っています。ただし、CSVの「Shared」を実現するには、発信を通じて仲間を増やすことが重要で、社内外の仲間がいなければイノベーションは起きませので「発信」が重要です。

主流化したSDGsをCSVツールとして活用する

笹谷: サステナビリティへの要請の動きがめまぐるしく変わるなか、ESGが定着しつつあり、特に投資家がESGをチェックするようになりました。そのようなESG時代に登場したSDGsは、日本語で「持続可能な開発目標」。Developmentが「開発」と訳されていますが、開発途上国だけの問題ではないので、「発展」ととらえてほしいと思います。もっと柔らかく考えると、世界の持続可能性を考える共通言語だと理解してください。

SDGsが、前身のMDGs (ミレニアム開発目標) と大きく違うのは、企業の役割を重視していることです。社会課題を解決する主体として、政府や国際機関、大学、NGOなどだけでなく、企業への期待が込められているのです。経団連はSDGsを「Society 5.0 (超スマート社会)」と絡めて新たな世界の創造をめざしていますし、政府から「SDGs五輪」「SDGs万博」という言葉も生まれています。SDGsが「主流化」しており、この流れは戻らないでしょう。日本企業もSDGsを使いこなすマインドに切り替えていくことが必要です。

SDGsの17のゴールと169のターゲットは、チャンスを見つけリスク回避に活用できる、重要なCSVツールとなるものです。その場合、社風やネットワーク、信頼、特許、技術力、社員の結束力などKDDIにもすばらしい「無形資産」がたくさんありますが、それらを生かしながら共感を呼ぶコミュニケーションを実践するには、SDGsが有効です。KDDIにとって、最も重要な「てこの原理が働く」という意味のレバレッジポイントになる目標は9番の「産業と技術革新の基盤をつくる」ことと、17番の「パートナーシップ」だと思います。SDGsの認知度が上がっている今こそ、SDGsを取り入れることで企業ブランドの「リ・デザイン」を図り、共感を呼ぶ発信性を高めてください。

SDGsは"規定演技"から"自由演技"の時代に

KDDI: 社会的に意義がある活動であるが、一方で取り組むには大きな投資が必要になるといった、事業との両立が難しいケースも出てきますね。

笹谷: 特に難しいところですね。複雑なSDGsの社会課題は短期間で解決できず、企業には中長期的な視野に立ってビジネスに取り組む懐の深さが求められます。SDGs目標の2030年もしくはその先の2050年を目標に、中長期を見据えた計画で道筋を示し、そのために必要なヒト、モノ、カネのリソースの投入に関する具体的なシミュレーションが必要です。経営におけるサステナビリティの重要性をマルチステークホルダーに理解してもらいながら、タイムラインの長さを克服するのがこれからの課題だと思います。

KDDI: 競合相手がたくさんいるなかで、SDGsに取り組むメリットをどのように考えていけばいいでしょうか。

笹谷: キーワードはSDGsの「主流化」です。政府が政策の軸に据えて、投資家や取引先も動くなか、社会の基盤を担う「プラットフォーマー」であるKDDIが動けば、関係者にも波及し会社の評判もぐっと上がります。例えば、伊藤園ではジャパンSDGsアワード受賞後に、関係方面から「SDGsについて教えてほしい」との依頼が増えましたが、注目されればされるほど、新規ビジネスにもつながります。採用活動を含むさまざまなマルチステークホルダーへの好影響が会社経営に跳ね返り、社員の意識向上にも影響しています。

上場企業の経営者におけるSDGsの認知度は今や6割近いというデータもあります。もはやSDGsは最低限行うべき"規定演技"になり、これからは各社の個性を生かす"自由演技"の時代に入ってきます。会社の強みとSDGsをうまくシンクロさせて、どう発信力するかの勝負です。SDGsに取り組む企業同士のつながりも増えていて、逆に取り組まない企業は置いていかれるリスクもあります。

KDDI: ESGとSDGsの関係について、SDGsは国連が標ぼうする理想の社会に向けたアプローチ、ESGは投資のリターンのためのリスクチェック的な要素ととらえています。

笹谷: 投資家や関係調査機関は、リスク回避寄りにESGを活用している傾向が強く、ESGは最低限必要な要素。一方、SDGsは、守りのみならず攻めの要素として活用できます。ESGとSDGsをリスクとチャンスの両面から見ることができます。ただし上面だけの「SDGsウォッシュ」とならないように、具体的なデータや2030年に向けた企業の目標を開示することで、説得力が高まります。ESGとSDGsの両面にらみでうまく対応できるとよいですね。

プラットフォーマーの役割に世界が期待

KDDI: SDGsの取り組みについて、パートナー企業と理解を深めたうえでSDGsの話をしていかないとエンドユーザーには届かず、全国に数百あるパートナー企業と歩調を合わせるのは簡単ではありません。SDGsをベースに理解促進を進め、足並みをそろえていくためのアプローチが重要だと考えています。

笹谷: SDGsを分かりやすく言えば、日本の「三方よし」の「世間よし」の部分にSDGsを当てはめて整理する。そうすることで、営業でも単に「新商品が出ましたのでよろしく」ではなく、SDGsの課題と関連付けた世の中との接点に関する「世間話」をしながら、営業する力を養うことができます。そうすれば、共通言語としてのSDGsが磁石のように理解者への牽引力を持ち、仲間が育っていくはずです。

SDGsでは、「普遍性 (幅広く通用するか、横展開可能か)」「包摂性 (多様性、少数者を尊重して弱者も含めての取り組みになっているか)」「参画型 (関係者の連携協力を仰いでいるか)」「統合性 (環境・社会のみならず経済性につながるか)」「透明性と説明責任 (評価、公表、修正のプロセスを取り込んでいるか)」の5点が、ジャパンSDGsアワードの評価基準にもなっていて、良い指針になります。

KDDI: 海外や若者にとってサステナビリティは当たり前ですが、実は高度成長期を経験した中高年世代への浸透が一番難しいかもしれません。グローバルな価値観の流れを日本企業にどのように入れていくかが課題です。

笹谷: 日本の通信事業者はもともと公益性の高い"SDGs的"な事業を続けてきて、SDGsの目標を見ると「何を今さら」と思うかもしれません。しかし、世界共通の課題と理解して取り組むことでこれまで培ってきた活動も光ります。そして、例えば自動車メーカーが動くと部品メーカーが動くように、KDDIにも関係者と協力するプラットフォーマーとしての役割が期待されています。今までやってきたことをSDGsに紐づけて発信するだけで、他への波及が始まります。感度の高い若手と経営層との間にいる人たちにもいずれ波及し、組織の大きなパワーになっていくはずです。

KDDIは、すでにSDGsと事業との関連性をしっかり示されていますが、これからSDGsを経営に生かすKDDIの「SDGs経営」に世界が注視しています。価値創造のストーリーをつくり、SDGs経営としての"自由演技"を意識しながら、プラットフォーマーとしての輝きを放っていってください。

KDDI: KDDIは、これまでも、国内通信での強靭なネットワークの提供やミャンマーの通信事業等の取り組みを実施してきており、昨年度には、SDGsやパリ協定等の世界情勢の大きな変化を踏まえて、サステナビリティ重要課題 (マテリアリティ) を再選定いたしました。そして、2019年度から始まる新中経営期計画では、本業を通じたSDGsへの取り組みを強化していきます。今日の笹谷様のご意見をもとに、さらに力を入れて持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思います。