マネジメントメッセージ
他社との差別化を図りつつ、
あらゆる分野において期待を超える価値を
提供し続けることにより、
新たな成長ステージを目指します。
代表取締役社長 田中 孝司
2014年7月
社長就任後3年間の振り返り
2016年3月期に向けた中期経営目標初年度
2010年12月の社長就任以降、最初の年度となる2012年3月期は、中期的な成長戦略である「3M戦略」を本格的に実行する前の足場固めとして、まずは基盤事業であるモバイル事業の立て直しに注力しました。
当時、MNP (携帯電話番号ポータビリティ) において他社への顧客流出が続き、また、データARPU (ARPU: お客さま1人当たり売上) の伸びでも他社に後れをとっていた状況の中、全社員で危機感を共有しながら、目標とする「auモメンタムの完全回復」に向けて、4つのKPI (解約率・MNP純増数・au純増数・データARPU) の改善に努めました。
次に、就任2年目となる2013年3月期は、3M戦略の本格展開に着手しました。3M戦略を具現化したサービス「 auスマートバリュー」「 auスマートパス」の拡販に努めるとともに、期初に掲げた2つのコミットメント「連結営業利益5,000億円」「月次ベースでのau通信ARPU底打ち」を実現し、文字通り「成長起点の年」となりました。
こうした着実な歩みを経て、2014年3月期の期初に、中期 (2014年3月期~ 2016年3月期) 的な経営目標として「連結営業利益の毎期2桁成長」を掲げました。
我々は、この3年間を「本格的な利益拡大フェーズ」と位置付けており、初年度の2014年3月期は、営業収益・営業利益・EBITDAにおいて2桁成長を達成することができました。
持続的な利益成長に向けた基盤を確立
持続的な利益成長を実現するためには、安定した売上成長が必要不可欠です。これを牽引する原動力となるのは、連結営業収益の7割強を占めるパーソナルセグメントでのモバイル通信料収入の増加です。モバイル通信料収入を増加させるためには、ARPUと加入者数の両方を伸ばしていくことが最も望ましいのですが、2013年3月期においては、純増モメンタムは好調に推移していたものの、ARPUが前期比ベースでまだ下落局面にありました。そこで、2014年3月期は、ARPU反転をコミットメントとして掲げ、データARPU上昇につながるスマートフォンシフトの促進と、毎月割設定額のコントロールにより、ARPUは第4四半期において前年同期比反転を実現しました。
スマートフォン浸透率は、2014年3月期末で49% (LTEに限定すると35%) まで上昇しており、今後も着実に上昇を続け、数年後には70%を超えると見ています。2015年3月期は、通期ベースで前期比+1.2%のARPU上昇を見込んでおり、持続的な利益成長に向けた基盤が整いました。
同時に、「3M戦略の推進・深化」を通じたお客さま基盤の拡大においても、着実に成果をあげることができました。
「auスマートバリュー」については、サービス提供開始から2年経過し、モバイルにおけるauスマートバリュー浸透率 (注1) は22%まで上昇しました。auスマートバリューの対象となる固定通信における提携事業者は現在も拡大を続けており、2014年3月末時点で、FTTH7社 (当社含む)、CATV125社213局 (STNetの提携CATV22社22局を含む) となっています。auスマートバリューならではの強みである相互の顧客基盤を活用したクロスセルの推進により、今後もさらなる浸透率の上昇を目指します。
また、同時期にサービス提供を開始したauスマートパスにつきましても、2014年3月17日に1,000万会員を突破しました。auスマートパスは、サービス自体が付加価値ARPU上昇に寄与するだけでなく、音楽・映像・電子書籍などの使い放題サービスへのアップセルにつながるお客さま接点としても重要な役割を果たしています。auスマートパス会員に限定した場合の付加価値ARPU (2014年3月期第4四半期実績) は720円まで上昇しており、今後も、auスマートパスを核に、付加価値ARPUのさらなる拡大を目指していきます。
一方、ネットワーク面においても、「au 4G LTE」ネットワークのエリア整備を着実に推進し、ベースとなるプラチナバンド800MHz帯の提供エリアにおいては、2014年3月14日に実人口カバー率 (注2) 99%を達成しました。
我々は、高速でつながりやすいLTEネットワークを実現するために、800MHz帯をベースバンドとして一気に利用エリアを拡大することに拘りました。2012年9月のサービス開始からわずか1年半で800MHz帯「au 4G LTE」の実人口カバー率99%を達成し、LTEのインフラ基盤を構築できたことは、新たな成長ステージを目指す上で非常に大きな成果と考えています。
J:COMとのクロスセルを強化
2013年4月、日本最大のケーブルテレビ事業者である株式会社ジュピターテレコム (以下、J:COM) を当社の連結会社とし、2014年4月には、J:COMと日本第2位のケーブルテレビ事業者であるジャパンケーブルネット株式会社 (以下、JCN) が合併しました。これにより、総加入世帯数500万、多チャンネルサービスシェア50%超のお客さま基盤を抱える新生J:COMが誕生しました。
圧倒的なシェアを誇る新生J:COMの誕生と、2014年3月に実施したauスマートバリューの適用条件拡大 (ケーブルテレビサービスにおいて最も加入率が高い多チャンネルサービスも対象として追加) により、当社とJ:COMとのクロスセルをさらに強化してまいります。
新たな成長ステージを目指す
2015年3月期以降は、これまでにお話しした成長基盤をベースとして、新たな成長を目指していきます。
マルチデバイス化の推進と収益拡大
日本においては、スマートフォン浸透率が約50% (注7) となり、タブレット端末の世帯普及率が20% (注7) となるなど、「スマートデバイス」への急速なシフトが進んでおり、多様なサービスを端末や場所に左右されずご利用頂ける環境が整いつつあります。これに伴い、お客さまが、1台目のスマートフォンに加え、タブレット等の複数デバイスを利用するマルチデバイス化の時代が本格的に到来する転換期に差し掛かっています。
我々は、こうした背景を踏まえ、お客さまのマルチデバイス化を推進し、ご利用の全デバイスから創出される「通信料+付加価値サービス収入」の合計額を拡大することに注力していきます。
マルチデバイス化の推進に当たりましては、新たな商材の拡販を料金プランの強化と合わせて取り組んでいます。
まず、固定ブロードバンド回線よりモバイルWi-Fi ルーターに対するニーズが高い単身者向けに、スマートフォンとのセット割引「 auスマートバリューmine」として、モバイルWi-Fiルーターの販売を強化しています。
また、今後の普及が見込まれるタブレットにつきましても、スマートフォンとのセット割引キャンペーンとして販売を強化しています。
いずれも2013年の秋以降スタートしましたが、非常に好調に推移しており、さらにマルチデバイス上で利用可能な付加価値サービスのさらなる充実を図り、ID当たりARPUの拡大につなげていきたいと考えています。
au WALLETによる新たな経済圏の創出
付加価値サービス収入の拡大を図るための施策としては、スマートフォンの浸透拡大に合わせ、auスマートパス会員の拡大を推進し、2014年3月末時点で1,025万会員まで達しました。さらに新たな施策として、2014年5月21日より、新しい電子マネーサービス「 au WALLET」を開始しました。
au WALLETは、auの各種ネットワークサービスを利用するための認証キーである「au ID」に、リアル店舗でも利用可能な決済機能を追加したものです。
日本では、コンテンツの決済手段としてキャリアビリングが一般的であり、回収率も99%と非常に高い状況です。au WALLETは、MasterCard (R) との提携により世界約3,810万店舗 (注9) で利用可能であり、また、キャリアビリングの強みを活かしてチャージ (入金) の利便性も向上させた仕組みとなっていますので、早期に市場での浸透率を高め、まずは2017年3月期における流通規模1兆円を目指しています。au WALLETにより、リアル経済圏での収益も取り込むとともに、将来的には、「ネット+リアル経済圏」の創出を通じて、新たなビジネスの発展にもつなげていきたいと考えています。
ネットワークのさらなる強化
ネットワークにおける重要な要素として、エリアと速度が挙げられます。エリアについては、既にお話ししました通り、800MHz帯「au 4G LTE」において実人口カバー率 (注10) 99%を達成しました。2.1GHz帯「au 4G LTE」においても、2015年3月末に90%超まで拡大予定であり、LTEのエリア展開では引き続き優位性を保っていきます。
一方、速度においては、LTEの次世代高速通信規格「LTE-Advanced」の技術である「 キャリアアグリゲーション (注11)」と、関連会社のUQコミュニケーションズ株式会社が提供する超高速通信サービス「 WiMAX 2+ (注12)」の2つの次世代通信ネットワークをスマートフォンおよびタブレットにダブル搭載する戦略を開始しました。これにより、お客さまのご利用環境に応じたネットワークが自動的に選択され、より快適に高速データ通信をお楽しみ頂けるようになります。我々は、LTEサービスにおける実行速度No.1を実現したいと考えています。
キャッシュ・フロー・アロケーションと株主還元
2014年3月期の設備投資額は、LTEの競争力強化のための基地局建設をはじめ、新たに連結化したJ:COM分の設備投資415億円、また、好調なデータセンター事業への投資等により、ほぼ計画通りの5,718億円 (前期比22.4%増) となりました。今後については、引き続き競争力の維持・強化を目的とした設備投資を行う予定ですが、Wi-Fiを活用したモバイルデータトラフィックの固定ネットワークへのオフロード施策を通じ、効率的に実行することにより、2015年3月期も5,800億円を見込んでいます。
2014年3月期のフリー・キャッシュ・フローは、EBITDAの増加をはじめ、スマートフォン販売に伴う割賦債権増加額が前期比で縮小した影響等により、前期比1,751億円増加し2,260億円となりました。なお、このうち993億円は、新たに連結化したJ:COMの影響によるものです。今後も、引き続き利益成長に伴う安定的なキャッシュ創出を見込んでいます。
キャッシュ使途について
キャッシュの使途につきましては、現在の中期経営目標終了後となる2017年3月期以降も持続的な事業成長を可能とするための成長投資を最優先に考えています。
その上で、株主還元については、持続的な利益成長との両立を前提とした安定配当を中心に、引き続き強化していく予定です。2014年3月期の一株当たり年間配当金は、前期比40円の増配となる130円、連結配当性向は32.6%となり、12期連続の増配となりました。今後も、連結配当性向30%超をコミットメントとして、利益成長に伴うEPS (1株当たり当期純利益) 成長との相乗効果により、着実に増配を続けていく方針です。
また、自己株式の取得につきましても、株価水準やキャッシュフロー状況等を考慮した上で、選択肢の一つとして検討してまいります。
KDDIフィロソフィ
企業人としての行動の原点、「KDDIフィロソフィ」の大切さ
KDDIには、社員が持つべき共通の考え方、行動規範を示した「KDDIフィロソフィ」があります。一人ひとりの個性を尊重するのは当然のことですが、志や倫理観の異なる社員ばかりでは、企業経営はうまくいきません。
当社は、社会インフラを担う企業として、いかなる状況下でも、安定した通信サービスを提供する社会的使命を背負っています。また、国民共有の貴重な財産である電波をお借りすることで成り立っている事業であり、全社員が心と行動をひとつにしなければその責務は到底果たしうるものではありません。
人々の幸せと社会の発展を願い、人として企業人として世の中にどんな価値を提供できるかを日々考え、共有し、信頼を強固にするためのフレームワーク、これが「KDDIフィロソフィ」であり、そこにCSR経営の原点があると私は考えています。
最後に
2014年3月期は、3年間の中期経営目標の初年度として、公約である「2桁の営業利益成長」を実現すると同時に、スマートフォンシフトによるデータARPUの成長もあり、第4四半期には念願のARPU前年同期比反転を実現しました。これにより、安定的な利益成長基盤を確立できたと考えています。
我々は、当社を取り巻く環境の変化に迅速に対応しながら、持続的な成長を実現し、且つ、新たな時代を先導していくために、成長戦略である「3M戦略」および「グローバル戦略」を推進し、信頼性の高いネットワーク、付加価値の高い商品・サービスの提供を通じ、お客さま満足度の向上を図ることで、企業価値のさらなる向上に取り組んでまいります。