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市役所の業務効率化に、企業派遣の人材と共に取り組む~新潟県三条市「地域活性化起業人」制度活用事例~
2024/03/29
「限られた人的リソースで市民と職員の満足度を高めるためには、DX推進による業務改善の道は避けては通れない」。強い危機感を抱く滝沢亮市長のリーダーシップのもと、業務のDXを推進する新潟県三条市。KDDIとの包括連携協定を締結するとともに、総務省の「地域活性化起業人」制度の活用により同社からの派遣人材を受け入れた。ノウハウを持った専門性の高い民間企業の人材が市役所の内部から業務課題を明らかにし、市役所職員とともにDXによる改善に取り組み始めた経緯と現状、その先に描く三条市の未来について、滝沢市長とKDDIからの派遣人材へのインタビューを通じて紹介する。
背景と課題
DXで市役所内業務の効率化を目指す
三条市長
滝沢 亮様
滝沢市長:私は2020年11月に三条市長に就任したのですが、前職は弁護士であり市の職員や議員の経験はありませんでした。就任直後に驚いたのは、ある職員から受け取ったメールが、「滝沢市長様 お世話になっております。私、〇〇課の〇〇です」と挨拶文から始まっていたこと。市役所内部のメールなのに無駄だと思い、LINE WORKSを導入してチャットで気軽に率直なコミュニケーションを図れるようにしました。
当時はコロナ禍だったこともあり、市役所内でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が広まり始めていましたが、私としては「DX」と難しく捉えるのではなく、非効率な仕事をできるだけ「楽ちん化」していこうと考え、ITに関する施策を打っていきました。職員の数は限られていますし、今後の人口減少で職員が減る可能性もあります。非効率な仕事の進め方を整理していくべきだと考えたのです。
公務員である職員のみなさんはとても真面目で、民間から見ると非効率な業務環境であっても、そのなかで丁寧に業務に取り組まれている。よりよい環境を整えることで、本来の優れた能力を遺憾なく発揮してもらいたいというのもDX推進の動機でした。
地域活性化起業人(企業人材派遣制度)を活用した理由
滝沢市長:私は、個人的に地方公務員の給与も能力に応じて上げるべきだと考えています。そうしなければ、三条市の未来を担う優秀な人材を獲得するのは困難になっていくと思うのです。そういう意味でも、企業から派遣される人材への十分な人件費を確保できる地域活性化起業人制度を活用しました。
この地域活性化起業人制度は、地方自治体では浸透していて、新潟県内でも外部からDX人材を受け入れている自治体がいくつもあります。民間からDX人材を獲得するのが難しい状況で、今回KDDIは青木さんの派遣を決断してくれました。感謝しかありません。三条市にとってこの制度はありがたかったですが、もし制度を活用できなかったとしてもDX推進のために外部人材を求めたことでしょう。
地域活性化起業人(企業人材派遣制度)とは
地方公共団体が三大都市圏に所在する民間企業等の社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かしながら地域独自の魅力や価値の向上等につながる業務に従事してもらい、地域活性化を図る取り組みに対し特別交付税を措置する総務省の制度。
三条市×KDDIのDX化の取り組み
外部人材に期待すること
滝沢市長:さきほどのLINE WORKSの導入など、私のアイデアベースで提案したことは、情報管理課の職員が応えてくれたおかげで実現できました。一方で、業務プロセスのボトルネックになっていることを把握し、それをITやDXによって改善するには、やはり外部のプロフェッショナルの知見を得た方が進みやすいと考えていました。
市の職員は三条市に関するプロフェッショナルですが、私も含めて外部から来た人は違った角度から「こうしたらもっとスムーズにいくんじゃない?」とか「これについては民間はもう半歩先を行っていますよ」とか、市役所内部にいるだけでは分からない知見を提示できます。市の職員と外部人材双方の強みを活かして、DXに向き合いたいと考えたのです。
三条市では、これまでも民間からCMO(チーフマーケティングオフィサー)を採用して、ふるさと納税の寄付額を2020年度の約7億円から2022年度の約50億円へと躍進させてきた経験があります。また、東京の不動産会社から「特命空き家仕事人」を派遣していただき、空き家問題にも取り組んできました。こうした外部人材による業務改善の成功体験があったことも大きいですね。
業務プロセスのIT化やDX化には変化が伴います。外部人材の方に市役所の職員として一緒に働いてもらい、膝を突き合わせて進め、職員の納得感や腹落ちを積み重ねていくことが中長期的によい成果につながると考えました。
一緒に課題解決を目指す姿勢に安心して任せられた
滝沢市長:KDDIと何度も面談を重ねるなかで、DX化を進める方向性が一致していると感じました。いま、民間ではどんどんハイテクな業務改善が進んでいますが、役所はチャットを入れたり、モニターをデュアルディスプレイにしたり、ノートパソコンの記憶装置をハードディスクからSSDに変えたりと本当に一歩一歩です。
KDDIは電気通信事業を担う企業として素晴らしい先進的なソリューションを持っていながらも、自治体の課題に合わせて同じ目線で一歩ずつ対応してくださる。「人を送り込むから、超未来的なソリューションを導入しましょう!」ではなく、「社員を派遣するので現場の課題を一緒に解決していきましょう」と自治体側に寄り添ってくれる姿勢でした。さらに、派遣した社員のバックには本社側でその社員をサポートするチームがいて、心強い体制が整っています。ですから、他社とは迷わず、お話をするなかで、ぜひお願いしたいと思いました。
業務の課題を把握し、DXによる改善を推進
三条市 総務部 情報管理課 情報管理課 デジタルアシスタントオフィサー(KDDIより派遣)
青木僚児
KDDI 青木:三条市とKDDIは2023年10月に「包括連携に関する協定」を結び、それと同時に私が三条市に派遣されました。派遣前はKDDIで法人のお客さま向けの業務を担当していたので、官公庁や行政の仕事に携わるのは今回が初めてでした。まずは30ほどのさまざまな課を回り、業務内容を教えてもらうことから着手しました。ヒアリングで業務を理解し、課題を把握して、さらにヒアリングを重ねながら課題の優先順位付けを検討している状況です。
それぞれの課や係で課題が生じている背景の理解も重要ですが、一方でその部分だけに引っ張られると課題定義が曖昧になることもあります。外部人材として着任している立場として、業務や課題の事情を理解した上で、フラットに物事をみて整理・判断するよう努めています。
滝沢市長:青木さんは現場の職員と一緒に汗をかきながら、同じ目線で課題を見つけてくれています。私たちが外部人材に求めているアプローチを理解し、着任早々から行動に移してくれていると感じています。着任から数カ月で、すでに市役所全体での現状把握と解決の大まかな方向性を提示してくれたことは、想定以上のスピードと成果だと思っています。
KDDI 青木:私自身は、市役所の業務に取り組み始めた頃に感じた「民間とのギャップ」を忘れないようにしています。これまでのKDDIでの経験や、三条市を外部から見られる力を活かしながら、段階を区切って進め、きちんと成果を出せるよう職員のみなさんと一緒に準備を進めていきたい。外部人材としての責任も感じますが、同時に、三条市や地域の方々に貢献していけるやりがいも大きいです。
滝沢市長:職員の考え方も尊重しつつ、でも必要なところは変化しなければなりません。青木さんがしっかりとした考え方をお持ちであることは理解していましたが、改めてその言葉を聞けてほっとしました。
外部人材受け入れに際しての準備も大切
滝沢市長:市長としては、外部から来た人材がしっかり動ける組織の体制と予算を整えることが重要だと思います。市町村は単年度予算なので、民間企業のように年度途中で新たな予算を設けることが難しいです。青木さんが着任したのは10月ですから、下半期の予算を確保して、半年間で現状の課題を抽出して、24年度から具体的な改善に取り組んでいく想定です。そういったスケジュール感の設定も重要だと思います。
また、青木さんの所属する情報管理課では、まずは外部の人材を受け入れて、膝を突き合わせて話せるような雰囲気づくりをするとともに、青木さんが動きやすいようなサポートや体制の調整を積極的にしてくれたと聞いています。外部人材と職員とが一緒に同じ方向を目指すには、こうした受け入れ側の準備や体制も非常に重要です。
今後の展望
三条市が描く未来
滝沢市長:三条市では、LINE WORKSのほかにも、リモートワークやWeb会議の推進、契約請求事務の電子化、マイナンバーカードの活用などを実践してきましたが、まずは市民のみなさんが市役所に来なくてもさまざまな手続を完結できることが好ましいと考えています。市役所内部では、ペーパーワークを効率化し、限られている人的リソースを企画立案や市民への対応などに充てられるようにしたいです。そういった業務が中心となることで、働きがいが高まります。
いま、公務員の採用は民間との競争が全国的に厳しくなっています。DX化をはじめ、働く環境を整え発信していかないと、若い人たちに職場として選ばれる確率が下がってしまう。優秀な人材を獲得できなくなる危機感を持っています。30年後も素晴らしい三条市であるよう、それをつくり支えていく職員にも気持ちよく仕事をしてほしいという思いがあります。その実現にDX推進は避けて通れない重要施策です。
三条市では、市内の民間事業者の方々とさまざまな連携を図っていますが、民間企業と同じ目線で話せる意味でもIT活用やDX推進は重要です。また、三条市は移住したい市町村でも上位にランクされています。まちが魅力的ならば、市役所も選ばれる魅力的な職場でなければならないと思います。
DXを推進し、市民のための時間を確保
滝沢市長:2024年4月からは、数多くの課題に対して優先順位をつけて、DX推進の取り組みを加速していく段階です。どこにリソースを割いていくか、青木さんはじめ情報管理課のメンバーと決めていきます。
DX化やIT化はそれ自体が目的ではありません。市役所であれば、DX推進で非効率な業務を改善して、本当の意味で三条市民のためになることに職員の時間を使っていきたい。それがきっと職員の満足度を上げ、成長を促し、結果としてよりよい組織づくりにつながると思っています。
よい職員づくり、よい組織づくり、そしてよいまちづくりのプロセスとして、DXを推進していきたい。いま、KDDI、そして青木さんの力を借りながら推進できているのは本当に幸せな状況だと思います。
インタビュー場所は、完成後間もない市役所地下の食堂跡スペース「ちかしょく」。三条市の若手職員有志がリニューアルを進め、「アウトドアのまち三条」にちなんで屋外をイメージした人工芝やテント、椅子やカウンターを設置。勤務フロアとは異なる環境で、思い思いに打合せや休憩ができるスペースになっている。