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2010年度ステークホルダーダイアログ (重要課題)
4つの重要課題とこれからのKDDIへの期待
KDDIは、2008年度に「4つのCSR重要課題」を選定し、重点的にCSR活動を推進してきました。今回、3名の外部有識者と経営層とのダイアログを開催し、これまでの活動と今後の課題について、客観的視点でご意見をいただくとともに、これからのKDDIに対する期待をおうかがいしました。
「4つのCSR重要課題」をめぐって
はじめに、KDDIの「4つのCSR重要課題」について、3名の有識者の皆さまから、課題の選定やこれまでの取り組みについて率直なご意見や評価、コメントをいただきました。
CSR課題をどのように認識するか
黒田: グローバルな事業展開において「bracNet (※1)」との協業モデルが成功を収めているとうかがっていますが、世界では貧困地域でも携帯電話が普及しています。途上国におけるビジネス (BOPビジネス (※2)) が注目されていますが、そのなかでもICTの活用は大いに期待されています。さらに「bracNet」の成功モデルを、さまざまな国で展開していただけたらと思います。
石田: 「4つの重要課題」は、厳しい言い方をすると、他の通信会社との差異が分かりにくい。CSRは、社会ニーズに対して、企業トップがリーダーシップを発揮し、どうチャレンジしていくかを伝えるものです。この4つのテーマは、事業の延長上から選ばれていますが、広く社会的な課題に対してKDDIがどこに力を入れていくのか──つまりCSRと経営の統合化、経営戦略のなかにCSRをどう取り込んでいくのかが重要です。
緑川: 自社の事業との関連だけでなく、もっとゼロベースで、「まず社会的課題とは何か」という設定をしてはどうでしょう。KDDIの「4つの重要課題」は、その分母として「解決すべき社会の課題」への認識があってこそ抽出できるものです。日本の企業の多くが、その「社会の課題」への意識が低く感じられます。そのなかで、KDDIのTCSという概念でとらえるステークホルダーに行政機関とNPO/NGOも入っている点は素晴らしいです。行政機関とNPO/NGOは、企業にとって多様な意味でさらに重要な存在になります。
ダイアログはなぜ必要なのか
田中: アメリカに留学をしていたとき、近隣のコミュニティがパーティなどを催し、いろいろと面倒を見てくれました。このときに「企業が社会に貢献する」ことの意味を考えました。企業が成長するには社会との関係は重要です。しかし現実的には、自社の事業に近い範囲での取り組みに追われてしまう。これで良いのかどうか、常に自問しています。
石田: さまざまな企業経営者が、その疑問に突きあたっています。だからこそダイアログが必要なのです。企業とステークホルダーの関係性をいかにつくるか。取り組むべき課題についても、市民やNPO/NGOと話し合い、そこから "気づき" を得て、サステナブルなビジネスへとつながる。例えば、企業の「人権」に対する意識は高まりつつありますが、かつてはそうではなかった。また10年前には現実感のなかった「コンプライアンス」が、いまはしっかり顕在化している。できる限り感度を高くし、多くのステークホルダーと関わっていくことで、社会の課題を認識することが大切です。
黒田: 企業がコミュニティの一員という自覚を持ち、本業とは直接関係しなくてもそのコミュニティのために必要な貢献活動を行うことは重要です。しかし、本業と離れたことは予算的にどうしても後回しになることが多い。継続性・持続可能性を考えると、本業に近い活動の方が株主も納得しやすく、また通信業はそれ自体が社会貢献の要素を持っています。その特長を活かすことで、社会におけるさまざまな課題解決につなげていけるのではないかと思います。
緑川: 本業は常に過去と現在であって、今後何をやるべきかということは、社会の変化によっても変わってくる。現在の事業ばかりを追わなくていいのではないかと思います。
嶋谷: そういう意味では、30年以上前からKDD (※3) は、アフリカなどの技術者に3ヵ月ほどの研修を行ってきました。その研修者のうちの一人が、のちに国の通信大臣になったという話を聞きました。本業には直接的な関係はないが、コミュニティに貢献している例だと思います。
石田: 今すぐにやらなくても会社はつぶれないようなことでも、5年後10年後、問題が顕在化し時代の方向性と大きくズレてしまったときに取り返しがつかなくなってしまうことがある。だからこそ企業は、常に時代の先取りを心がける必要があります。その意味で、CSRには「したたかさ」が必要です。世の中をリードし、世の中に仕掛けていくには、うまくコミュニケーションをとることが大切で、例えば国際NGOのような機関とタイアップすることで、企業としての新たな展望を獲得することもできます。
緑川: 日本は昔から「一番手にならず二番手」の風潮が強い。一番手はリスクが大きい。だから、無難に二番手を目指す。業種による相違も見られますが、いまはこういった考え方を打破して、日本のトップにとどまらず世界のトップを目指す活動が求められます。
企業が果たす社会的役割の変化
石田: 貧困国からすると、お金を持っている企業に対する期待はとても大きい。格差社会をなくすために今の世界でもっとも意識されている「平等」「公平」を、どう創出するか。例えば御社はKDDIケータイ教室を開催されていますが、これは「機会の平等 (※4)」ですね。KDDIがイニシアチブをとって行動する、という姿勢と、そのメッセージを明確に社会へ向けて発信することが重要です。
緑川: 1990年代と2000年代では、世界は様変わりしました。かつてはNPOと企業は対立していましたが、現在では「協働」が基本路線になっています。ソーシャルビジネスというレベルでは、企業もNPOも参入する共通基盤ができた。だからこそ、KDDIはもっと発信力を強め、常に存在感を高めてほしい。また、それに見合う企業としての力をつけていってほしい。
田中: 私たちは今まで、「情報通信でできること」という範囲内で物事をとらえていたので、視野が狭くなっていたと思います。世の中に必要とされているものに対して、自分たちは何ができ、それが自分たちの活動のなかでどう位置付けられるのか、これからしっかり明確化していきたいと思います。
石田: 社会の視点から取り組みをいくつかに絞り込んで、それに特化するのが良いと思います。
田中: 冒頭で「bracNet」のお話がありましたが、私たちとしては企業としてのメリット、それから社会的に何かできるというメリット、つまり社会的な配分に共感し、これを進めてきました。この事業は、成長はしているが状況はなかなか厳しい。会社が存続しないと当社も目的が達成できないので、事業と社会貢献とのバランスが難しいと感じています。私たちの事業のシナジーと社会貢献が同時に実現できる良い取り組みだと思っていますが、これが世の中から求められていることに対してどの程度のものなのか、どういう意義があるのかという認識が、まだまだ当社はできていないと思っています。
黒田: 「bracNet」については、革新的なことだと理解しています。経営面の事情は、サステナブルビジネスのなかでは必ず起きることだと思います。業績などの現状も含め、そういったプロセスを開示して伝えていただけるとありがたいと思います。
これからのKDDIへの期待
休憩をはさみ、ダイアログは後半へ。前半の話をふまえ、3名の有識者の皆さまに「KDDIに期待すること」をテーマに、キーワードを紙に書いていただきました。
企業にとって持続的成長とは何か
石田: 私は「Sustain」と書きました。持続的成長は企業にとって非常に大切ですが、「サステナブル」の語源への理解が不十分と感じます。「Sustainable」には、メインテインとサファー、アップホールドという3つの意味 (※5) が込められています。企業として、この3つの切り口で「サステナブルとは何か?」を考える。社内外を問わず、議論のなかで一つひとつのプロセスから積み上げていくことで、KDDI独自の「サステナブル」が構築できます。
嶋谷: 「企業の持続的成長」に関して、BCP (事業継続計画) への取り組みがあります。災害対策訓練を1月に行いましたが、今から思えば、正直緊張感が足りませんでした。そして、3月に震災が起きました。この震災の復旧において、今までの復旧作業と大きく違っていた点は、あの惨状を見て「人として」接した場面がいくつかあったことです。象徴的な話のひとつとして、基地局復旧のために被災地に入ったKDDIの作業車が、「乗り合い」と書いたダンボールを掲げ、避難する人たちを避難所へと運びました。誰に命令されたわけでもなく、本人たちの意思でやったわけです。
田中: 会社としての業務ではない。しかし「人として」地域に貢献するという意味では当然やるべきことです。今回の震災を通じ、社員の意識が大きく変化したようです。自主的に動き判断することで、通常なら1カ月かかることを1日でやり遂げることができた。この事実から、多くのことを学ばなければなりません。
石田: そのとき、社員の皆さんのベースにあるのは「KDDIフィロソフィ」なのかもしれませんね。いかに多くの社員の方々に、経営理念に共鳴し、共感を持ってもらうかが大切です。
嶋谷: 実際、社員の「一日でも早くサービスを復旧させるんだ」という気持ち、意志はとても強かったです。
緑川: (「KDDIフィロソフィ」は) 非常に良いフィロソフィですね。従業員の幸せもあった上で、国際社会にも貢献する。KDDIとして、この姿勢をずっと続けてほしいと思います。
ISO26000をどのように活かすか
黒田: 私は、キーワードを2つ書きました。まず「コミュニティ」。ISO26000 (※6)「7つの中核主題」に「コミュニティへの参画と発展」があります。多くの企業の方は「これは開発途上国での話ですね」とおっしゃいますが、そうではなく、組織、企業が自分たちの地域社会とどう関わっていくかということです。コミュニティと関わるとき、自分たちもその一員だと考え、その上で企業は、地域の課題にともに向き合うことが重要です。 次に「人権」です。ジョン・ラギー氏による「企業と人権のフレームワーク (※7)」が、企業の人権方針策定の際のガイドラインになりつつあります。重要なことは、企業の影響力がおよぶ範囲は広く、コントロールできる範囲に関しては責任がある、という考え方。つまり、人権CSRを企業という組織のなかだけでなく、サプライチェーンにまで広げて見つめる必要がある。「人権」を限定的な範囲でとらえがちな日本の企業にとって、今後の課題と言えます。
緑川: 私は、まず「教育」と「平等」と書きました。日本の教育を大きく変えなきゃいけない。大学教育も社員教育も、幅広い教育の在り方を考える必要があります。欧米ではたくさんのことを調べ、討論して決める。日本はこれが徹底して弱い。法律も憲法も、市民の総意で決めていくことが必要。そういった市民の判断力も、やはり教育の問題だと思います。これを前提に「平等」がはかれる。そして「合意」。日本企業独自の例で言えば、人事異動。希望は出すけれど、希望以外の異動が中心ですよね。欧米はこれが少ない。合意形成で、本人が「これでいい」と納得しなければ人を動かさない。こういう考えが必要。日本は組織優先の社会。そんな社会を変えていかなければならないと思います。
石田: ISO26000に書かれていることを忠実に実行するのは難しいと思います。全体の仕組みがどういう背景でつくられたか、その文脈を理解した上で、どこにKDDIなりの「中核主題」を絞り込むか。絞り込んだあとは、コミットメントとして企業トップから発信することでリーダーシップを発揮し、実践につなげていくということになります。
緑川: 特に「人権」と「コミュニティ」について、日本の企業は非常に弱い。日本企業の場合、人権の問題は人事部が担当している。しかし、地域社会の人権問題もあるので人事部の考えだけではなく、全社的課題とすべきです。そして、すぐできることと中長期な課題を整理すること。例えば、ISO26000の指標にもある「同一価値労働・同一賃金」の原則。これについては政府としてもビジョンが出せない。男女の格差については改善のスタートが切られていますが、定期昇給による年功格差と正社員・非正社員の雇用形態格差の解消は未解決です。
KDDIのCSRが目指すべきこと
石田: そういった課題に対し、できないから何も言わないのでなく、メッセージを出していただくことが大切だと思います。「ここまで認識しているができない」「できない理由はこういう制度があって…」というような。メッセージを発信しないと、外部からは無視しているのか意識していないのか分からない。その上で、ステークホルダーの要請が強ければ業界を動かそう、といったリーダーシップが発揮される。
黒田: ISO26000は認証規格ではないので、使い方が難しいとは思います。推奨事項が多数載っているので、KDDIがどう選択していくのかというプロセスを見せていくことが重要だと思います。今できているか、できていないかではなく、ワーキングプロセスを示していくことがCSRです。そのなかで、方針を固め、社内で議論をし、さらにステークホルダーを交えて何が重要かを話し合う。こういったことがCSR報告のなかに盛り込まれていくと、より分かりやすくなると思います。
嶋谷: CSRという言葉と「したたかさ」というキーワードがなかなか結びつかなかったのですが、お話を聞いているうちにだんだん理解できてきました。つまり、CSRで企業の競争力を高めるということですね。これを、もう少し自分たちなりに咀嚼し理解を深めていこうと思います。
田中: 会社というものは「法人」つまり「人」です。自分が住んでいるコミュニティに税金を払うように、KDDIという企業もコミュニティに寄与しなければなりません。今日いただいたさまざまなアドバイスをKDDIとして消化した上で、事業のサステナブルな継続性を高めたい。そして、利潤の一部を税金として社会にフィードバックするなどして、コミュニティに貢献したいと思います。今日はいろいろなお話ができて良かったです。本当にありがとうございました。
- ※1bracNet: バングラデシュでブロードバンドサービスを展開する情報通信事業会社。KDDIは同社に出資し、現地に通信インフラを構築することで高品質なインターネットブロードバンドの普及を推進している。
- ※2BOPビジネス: BOPとは「ベース・オブ・ザ・ピラミッド」の略称でもっとも所得が低い層を指す。この層をターゲットにしたビジネス。企業の利益を追求しつつ、低所得者の生活水準の向上に貢献するビジネス。
- ※3KDD: KDD株式会社。2000年10月にDDI (第二電電株式会社)、IDO (日本移動通信株式会社)との3社合併によりKDDIとなる。
- ※4機会の平等:チャンスは平等にあるべき、という「公正」重視の欧米型概念
- ※5メインテイン、サファー、アップホールド: 「maintain (維持する)」「suffer (耐える)」「uphold (支える)」
- ※6ISO26000: 2010年11月に発効された、社会的責任に関する国際規格。
- ※7企業と人権のフレームワーク: 国連の企業と人権に関する特別代表ジョン・ラギー教授が提唱した「(人権の) 保護、尊重、救済の政策フレームワーク」。
今回初めて、経営トップが有識者の方と意見交換する機会を設けました。当社のCSRは、すべてのステークホルダーのご満足を向上させるTCS活動であることや、これまでの取り組みについて客観的な目で見ていただくことができ、一定の評価をいただけた部分もありました。一方、「社会の課題」のとらえ方や情報開示のあり方など、まだまだ足りない部分や新たに気づいたこと、考えなければならないことが数多くあると痛感しました。ダイアログを通じていただいた貴重なご意見を真摯に受け止め、改善に努めるとともに、今後もステークホルダーの方々との対話を通じてご意見をうかがいながら、KDDIとして果たすべき社会的責任とは何かを常に考え、社会とともに持続して成長できる企業を目指して取り組んでいきたいと思います。