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2012年度ステークホルダーダイアログ (消費者課題)
消費者課題とKDDIへの期待
消費者および社会的な課題に詳しい2名の有識者をお招き「消費者課題」をテーマに、KDDIの各担当者と活発な対話を行いました。
お招きした有識者の皆さま
(公社) 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会
常任顧問/元ISO26000 国内委員会委員
古谷 由紀子氏
株式会社ユニバーサルデザイン
総合研究所 所長
赤池 学氏
KDDIが消費者と正しく向き合うために配慮すべき課題とは
メーカーの分業の中で通信事業者に求められる対応は
従来型の携帯電話 (フィーチャーフォン) に加えてスマ-トフォン (以下、スマホ) が普及する中で、多種多様な機器やアプリケーション (以下、アプリ) が販売されています。そんな状況で、ユーザーである消費者と通信事業者であるKDDIとの間に、どのような課題があるのか伺いました。
KDDI: かつて携帯電話は、au (KDDI) が独自に仕様や機能を考え、長期間かけて開発していました。しかし、スマホの場合は、各メーカーが開発を主導するとともに、短期サイクルで基本ソフト (OS) やアプリを更新し、市場ニーズにすばやく応える図式に変わりました。こうした開発スタイルの変化によって、ブラックボックス化された部分が増えています。
そのため、私どもがスマホの動作のすみずみまで詳細に把握することが難しくなってきているのが実情です。
古谷: まさに、そこが「消費者課題」ですね。KDDIだけでなく、すべての通信事業者が1社で統合的に管理できない。厳しい競争の中で分業が必要なのは理解できますが、問題が起きた時に不利益を被るのは消費者です。そのような課題に企業が仕組みを構築して解決すると消費者の信頼度が上がると思います。
KDDI: スマホとカーナビとのBluetooth接続で、カーナビの機種によって動きがおかしいとお問い合わせいただく場合があります。Bluetoothは規格で統一されていますが、うまく接続できないケースもあり、私どもも膨大な種類のナビ機との接続をどこまで事前チェックすべきか議論した経験があります。充電器では、ある機種の発売初期に「外国製の充電器につなげたが充電できない」との声が何件も寄せられました。本体にどんな不具合が生じるか分からないため、急遽、梱包時に「所定の充電器以外では、充電できなかったり時間がかかったりします」と注意書きを入れました。周辺機器も次々に新種が出てくるので、事前にご案内するのが難しいのが実情です。
クレームを監視して解決策を調べ、社会に発信して情報共有を
古谷: 一般に「お客さま窓口を設けているから充分」と考えがちですが、消費者が不利益を受けたり困っている時に自社だけで解決できなければ、制度や救済機関を紹介するなどして積極的にサポートすることが求められます。
赤池: 私が関わっているNPOでは、主要な小児病院と連携して、子どもの重大事故の発生状況を聞き取り、データベース化して公開しています。安全情報の循環型社会をつくるという考え方です。同様に、移動体通信に関わるクレームや問題点の可能性を洗い出して情報を社会に知らしめる。自社で解決できないことは、機器メーカーやソフトメーカーに相談したり調べたりして、解決策を社会に発信する企業姿勢こそが「チャーミングなCSR」です。「クレームは開発の種」といいますが、CSRの観点からお問い合わせを商品やデザイン開発に結びつけていく戦略的なプロジェクトに取り組むことにも意義があります。
KDDI: 当社では、お客さま満足の管理指標に、オペレーターがお電話に何%応対できたかを示す「応答率」があります。これに加えて、お問い合わせ案件をどれだけ解決できたかを示す「解決率」という新たな指標を設けています。
お客さまには正しい情報をお伝えして、納得できるものを選んでいただけるようにすることがユニバーサルデザインの観点で重要だと思います。店頭でも一様にスマホをお薦めするのではなく、ご利用状況によっては携帯電話が使い易いことをアドバイスすることがあります。また、これからはアプリについても、auスマートパスのように当社が確認したものと、それ以外のもの、それぞれのメリット/デメリットをお伝えした上で選んでいただくといった取り組みが、ますます重要になってくると考えています。
製品開発の初期から子ども・高齢者・障がい者などを参画させて
古谷: 消費者目線に即した良い取り組みですね。ところで、子どもやお年寄りが携帯電話やスマホを使う中で「もっと配慮やケアを」と感じることがあります。製品開発時に子どもやお年寄りを参画させたユーザーテストやマニュアルの改善などはやっていますか?
KDDI: CSRとして注力しているキッズ&シニア向けの「ケータイ教室」での知見をサービス改善に反映しています。例えば、高齢者の方が電源を入れる時に、スイッチの「長押し」の意味がご理解いただけず、「ギュッと押す」と言い換えて操作方法を会得されたなど多くの気づきや発見があります。また、取扱説明書は「図解やイラストだけでは分かりにくい」とのご指摘から、一昨年に発売した高齢者向け携帯電話の操作マニュアルは、すべて写真でわかるように工夫するなど、試行錯誤しながら改善を続けています。
赤池: 確かに、すばらしい取り組みですが、それらは製品使用時の教育啓発です。ユニバーサルデザインを進める上で重要な要件の一つが、製品の構想・設計・開発・試作評価の段階で、可能な限り生活者を参画させる「参画性のデザイン」です。高齢者・障がい者・子どもに関する有識者・医者・看護婦・介護士などで構成するアドバイザリーボードを設置し、彼らに企画も考え、試作品も評価していただく。 スマホなどの製品開発において、参画型デザインプロジェクトを立ち上げ、そこで得られた社会的弱者向けの基本ソフトを精緻化して社会で共有していく。その音頭をとるのがKDDIであれば、すごく格好いい。しかも、開発プロセスで機能開発やデザイン開発の貴重なデータやノウハウが自動的に蓄積されていく。そういう公益と事業を循環させる活動自体が、これからのCSRではないかと思います。
KDDI: 通信事業会社の製品機能、アプリ、サービスでの差別化が難しい時代こそ、企業としての対応力、能動的に課題を見つけて改善していく会社だけが価値を高められると思います。それを念頭に種々の活動に取り組むことが重要であると再確認させていただきました。
KDDIが目指すべき一歩先のサービスとは
自律化社会では製品やサービスのカスタマイズが重要
社会が大きく動いている中で、製品やサービス面で、どのようなイノベーションを提供していくべきかを戦略的なCSRの視点で伺いました。
赤池: これまで低炭素社会やエネルギーのベストミックスに代表される「最適化社会」を目指してきましたが、部分最適はできても全体最適が進まない。その一方で、情報技術の成熟によって“情報の民主化”が進展しています。これらを背景に胎動してきたのが「自律化社会」です。それは個人・企業・団体などが自ら計画・行動して自らを律する社会で、多様で個別のアクションが、あらゆるセクターで起きてくる。そうなるとユニバーサルデザイン (UD) も、1種類の最適解を追求するのではなく、多様なユーザーが機能やサービスの創出に自ら深く関与しながらカスタマイズしていく必要があります。そこで、KDDIのUD戦略として、自律化社会におけるUD、スマホにおけるUDをテーマに、有識者などを集めて深掘りし、知見や知的財産のようなものを社会に公開していくような方向感が求められます。
KDDI: 誰もが使いやすい製品を提供するという点で、スマホには改善すべき点がまだまだあります。例えば、スマホの基本ソフト (OS) は英語圏で作られ、アプリは各国のベンダーが提供していますが、文化や慣習の違いによるためか、ユーザーインターフェイス (※) が日本人に調和していないケースも見受けられます。そのため、スイッチのON/OFF設定の概念が異なったり、アプリどうしの相性が悪かったりする事例もあります。これは私どもだけでは解決できず、業界全体で取り組むべき課題だと思っています。
- ※ユーザーに対する情報の表示様式やデータ入力の方式などを規定するコンピュータシステムの「操作感」。
KDDI: スマホを社会に普及させるため、先進的なお客さまや若い世代を中心に機能やサービスを開発してきましたが、今後は高齢社会の中での役割に、もっと目を向ける必要性も感じます。また、かつては端末機種の機能で差別化できましたが、各事業者が同じような端末を採用する中で、どうすればKDDIを選んでいただけるのか。それには端末・サービス・サポート・販売の各部門が点で活動するのではなく、各部門が連携を深め、より一体感を持って取り組まなければなりません。
KDDI: まさに、そこが課題だとも思っています。UDの取り組みは全社に見受けられますが、まだまだ孤軍奮闘が続いています。それらを有機的につなげ、より良いものにしていく仕組みが不可欠です。そしてそれらの工夫が形骸化しないように、組織や人材の育成を継続する必要があると思います。
赤池: 今のお話はすごく重要です。単に消費者行動を読んだり追うのではなく、スマホがそうだったように全く新しい価値を持った製品・サービスを提示する。「新しい価値消費」を創ってしまう戦略観で、一歩先のスマホのあり方をKDDIとして提案したいですね。その一環として、安全・安心の視点ではなく創造力や好奇心を育むような「キッズ携帯」や「キッズスマホ」が考えられます。例えば、ハイスペックの太陽電池やプロジェクターを内蔵したような、子どもにこそ最先端・本物を提供する“攻め”と“感性”を重視した製品開発を期待します。
情報提供のユニバーサルデザインにも目を向けて
KDDI: 冒頭でお話されたカスタマイズの必要性は、取扱説明書の作成者としても感じています。法律に則った告知義務事項を盛り込んだ分厚い冊子には賛否両論ありますが、その一方で、書店ではスマホの活用ガイドが売れています。そんな状況を見ていると、基本的な操作マニュアルとは別に、お客さまがスマホを使ってやりたいことにフィットした“私だけのマニュアル”を提供する時期に来ているのではと感じています。
古谷: “私だけのマニュアル”という発想がおもしろいですね。一般的な取扱説明書より、スマホでやりたいこと・できることを教えてくれるガイドの方がニーズは強いかもしれません。
赤池: 例えば、基本操作のDVDに加えて、ニーズに合わせた使いこなしDVDを開発してシリーズ化していく。「KDDIのスマホは、実はこんな使い方もできますよ」というクリエイティブな情報提供は、優れたコミュ二ケーション開発であり、社会に新しい価値やライフスタイルを創出するシナジー効果も期待できます。
KDDI: もう一つ意識しているのが、お客さまとの双方向コミュニケーションです。日頃からお問い合わせやご指摘・ご意見をいただき、案件には即応していますが、ご報告やお礼を差し上げる機会が少ないのが実情です。こうした機会を大切にして、もっとコミュニケーションを深めていかなければと考えています。
古谷: ぜひ、やってください。どの企業も、お客さまの不満や苦情、アンケート依頼には熱心ですが、結果のフィードバックがありません。特に消費者は、ネガティブな案件がどうなったのか気になります。説明責任に関わることもあるので、ホームページやCSRレポートに掲載するだけでなく、スマホなどでタイムリーに教えていただくと満足度が高まります。
赤池: 最後にソーシャルウェア (公益としての品質) の観点から、KDDIはKDDIケータイ教室などを開催していますが、青少年向けに携帯電話やインターネットの使い方を話し合う場を設けるなど子どもの頃から良識を養うコモンセンス教育にしっかり取り組んでいただきたいと思います。
KDDI: 消費者課題をテーマに、どうすればお客さまから支持されるのかという観点で有益なアドバイスをいただきありがとうございました。又、課題に対して、組織的に解決に向けた取り組みが十分できてないという気づきもございました。先日行った社員の意識調査では、弊社は意思決定も施策もスピードアップしているが、一方で、部門間の連携や組織的な取組みに課題があるとの結果が出ています。まさに今回いただいたご提案やご指摘にも通ずる課題であり、それを解決できるよう注力してまいります。