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2012年度ステークホルダーダイアログ (環境)
環境への取り組みとKDDIへの期待
環境の分野に詳しい2名の有識者をお招きし、「環境」をテーマに、KDDIの各担当者と活発な対話を行いました。
お招きした有識者の皆さま
株式会社国際社会経済研究所 代表取締役/
元ISO26000
国内委員会委員
鈴木 均氏
早稲田大学 環境総合研究センター 准教授/
株式会社 早稲田環境研究所 会長
小野田 弘士氏
Green of ICT (携帯電話基地局の省エネ化) の推進
設備機器メーカーと連携した省エネ技術の開発
KDDIは事業拡大に伴い消費電力量が増加する中で、総電力量の約60%を占める基地局の省エネ化を重要課題と位置づけています。情報通信技術 (ICT) を活用した「Green of ICT」について伺いました。
小野田: 拡大期に電力消費が増えるのはやむを得ませんが、その中で、いかに増え幅や上昇率を小さくするかが重要です。また、エネルギー問題は、消費電力量 (kWh) とともにピーク時の最大電力 (kW) 削減の重要性が増し、通信業界はその両方が課題です。
KDDI: 電力消費の伸び率の妥当性は常にテーマとして重視し、弊社の「グリーン調達基準ガイドライン」に基づいて、設備機器はできるだけ省エネ性に優れた機器の導入に努めています。ただ、コストとのバランスもあり、省エネ性能や導入費用とともに製品寿命やその機器の導入により影響を受ける関連設備の消費電力なども細かく検証し、適正な評価軸の確立に取り組んでいます。
一方で、設備機器の低消費電力化 (CO2排出削減) を目的に「ICT分野におけるエコロジーガイドライン協議会」に参画し、私ども電気通信事業者と通信設備機器メーカーが協調して種々の機器に省エネ基準を設けることで技術開発の促進に取り組んでいます。
鈴木: 設備機器メーカーにとっても、そうしたエンゲージメントの場でKDDIのような通信事業者から「電力消費量を削減でき、品質も良く、低コストの製品を」と繰り返し要請されることが、創意工夫や技術開発のモチベーションになりますね。同時に、従来の発想だけでは電力消費量の大幅削減は難しく、大胆な発想転換が必要です。海外では一つの基地局を複数の通信事業者で共有する例もあるそうですが。
KDDI: 技術的に検討していますが、ハードルはまだ高いです。
鈴木: EUは2020年に向けたエネルギービジョンで、経済を成長させつつエネルギー消費量とCO2排出量を下げていく「デカップリング政策」を掲げ持続可能な社会作りを目指しています。その面では既にドイツが実績を示しています。その成功の鍵はICTの活用です。一方ICTは大量の電力を消費します。携帯電話網やクラウドサービスの世界的な拡大によって携帯基地局やデータセンターでの電力消費量が急増している事実があり、基地局やデータセンターの省エネが重要な社会課題になりつつあります。実際、日本では2011年から2012年に掛けて、全体の電力消費量が4.6%削減したにも関わらず、データセンター関係の消費量は7%増加したというデータがあります。そのような状況から、最近欧米の環境NGOが企業のデータセンターの環境負荷を下げるよう再生エネルギーの使用促進キャンペーンを立ち上げました。それを受けて米国のインターネット配信企業ではデータセンターの電力ソースをすべて自然再生エネルギー化したところもあります。このような世界的キャンペーンを展開している環境NGOの動きもモニターしていく必要があります。
また、グローバル競争の中で日本の設備機器メーカーが世界で強くなるためにも、その重要ステークホルダーである通信事業者が技術革新を強く促していくことが重要です。
トライブリッド基地局によるCO2排出削減
KDDI: KDDIは、2009年から太陽光発電・蓄電池・深夜電力を活用したトライブリッド方式の電力制御技術を使った基地局の建設を進めており、2012年度内に100局を建設します。基地局の無線装置機の消費電力は約1kWで、太陽光パネルを2枚設置した基地局では、好天の正午前後2~3時間は400W発電して必要電力の40%を賄います。4枚の場合は2倍の発電能力で8割ぐらいカバーします。また、蓄電池で夜間に充電し、昼間のピーク時にその電力を無線装置機用に充当し、電力のピークカットとピークシフトの両面で効果を発揮しています。こうした取り組みを積極的にアピールするのも大事な使命だと認識しています。
小野田: それは「ICTインフラ整備の価値」を社会に周知するという意味で重要です。KDDIは事業を通じて地域の雇用を確保し、多彩な通信サービスを提供し、東日本大震災のような災害時の備えになることを社会から認識してもらう。同時に相当のCO2を出しているが、できる限り排出削減に努めている事実も周知する。また、先進のトライブリッド基地局を全国数万の基地局に全展開するには、どんな条件を整える必要があるかも明らかにしていく。パネルや蓄電池のコスト低減なのか、制度の改善なのか。さらに、ICTによってどれほど社会の節電に貢献できるかを明確にすることが広く信頼を得るポイントです。
鈴木: 電力消費量を減らすには自社だけでは限界があります。通信設備や空調機器メーカーの頑張りはもちろん、再生可能エネルギーに関連する事業者も関わってきます。その意味で基地局やデータセンター全体の設計が重要です。合わせて、上流の資材調達先から下流の販売店も含むバリューチェーン全体での省エネ努力が期待されますので、バリューチェーン全体でのプレーヤーの明確化とエネルギー消費の可視化が前提となります。
KDDI: 都市部での基地局の立地場所は、ほとんどが個人・企業が所有するビルや土地で、そこを賃借して設備を設置します。ビルの屋上にトライブリッド基地局を設置する場合、太陽光パネルや蓄電池など、通常の基地局設置時より広いスペースや重量負荷がかかります。実際、トライブリッド基地局の建設では、物理的な制約や占有面積の点でオーナー様の了解が得られず設置を断念したケースもあります。そこで、もっと発電効率が上がって太陽光パネルがコンパクトになったり、蓄電池が小型化できれば、省スペースが可能となり、景観への圧迫、建築物への重量負荷も軽減できるので、ご指摘のような観点から多様なプレーヤーとの協働・協調がいっそう重要になってきますね。
KDDI: 基地局の建設では、省エネ化とともに景観や生物多様性への配慮も注視しています。行政・自治体の要請や指導などの背景もあり、近年は景観への配慮について特に意識しており、建設の前段階で塗装色や高さについて関係機関と協議を重ねます。生態系への配慮では、過去の事例としてオオタカやコウノトリの営巣・産卵期と建設時期が重なる場合は、自治体や環境保護団体と協議して建設工期を調整したり、希少な植物が生息している場合は環境省の指導で移植や植林することもありました。さらに、競走馬や乳牛などが工事の音で出産・種付け・搾乳などに影響が出ないよう、打撃音のしない杭工法を選択した事例もありました。携帯電話が社会インフラとして認知され、山岳遭難時の非常連絡手段としての必要性も理解されて、昔に比べると「環境破壊につながる基地局建設は絶対認めない」というケースは少なくなってきたように思います。ただ、KDDIとしては必要性をご理解いただきながらも環境影響を最小にするため、自治体や地域の皆様との信頼関係を第一義に取り組んでいます。
Green by ICT (社会全体の環境負荷低減) の推進
地域サービスの提供を起点に節電行動を社会へ
KDDIは、ICTを利活用して社会全体の環境負荷低減を図る「Green by ICT」を掲げています。KDDIが“社会貢献の事業化”として取り組む電力消費量の見える化などのサービス (エコビト、節電ひろば) について伺いました。
KDDI: 「エコビト」は、ご自宅内に高精度の電力センサーを取り付け、パソコンやスマートフォンで電力使用量を見える化し、家族構成やライフスタイルに合わせて節電行動をアドバイスするサービスで、2012年度夏以降に実証トライアルとして実施しています。また、その実証トライアルの中で、電力のピークカットを促進することも実施しています。一方、「節電ひろば」は、大震災後の2011年度に実証トライアルとして実施したもので、電力使用量の見える化で節電意識を高め、貢献度に応じてauポイントを付与し、ピークシフトを促進しようとしたものです。
KDDI: 大震災以降、電力消費量を抑えざるを得ない中で、産業界では自主的に電力消費量を削減しています。民生分野では住宅のエネルギー使用量を抑制する必要があり、KDDIはこの分野で貢献しようと、こうした支援サービスを立ち上げました。ただ、お客さまの声を聞くと、ピークシフトや電力使用量を抑えるメリットを事業者ほど感じていらっしゃいません。使用量の抑制で電力会社が効率化を図り、回り回ってお客さまに利益をもたらしますが、事業者と生活者との間にはかなり価値観の相違があるようです。
小野田: 発想の起点がエネルギ-に偏りすぎていますね。スマートコミュニティの議論でも同じことが起きています。それより、まず住民がメリットを実感できる地域サービスを提供することを重視し、結果的にエネルギーの削減に結びつける。例えば、電力ピーク時に地域の小売店が安売りセールを開催して住民の外出を促す。外出する人が多いほど家庭の電力消費量は減り、コミュニティ全体で電力ピークカットやピークシフトができます。外出する人の動機は、節電やエネルギーでなくていいのです。要はコミュニテイの動線を効率的にコントロールすることで社会全体の節電につなげていく。KDDIのようなICTインフラに関わる事業者は膨大な情報を持っているので、それを最大限に活用することで環境負荷を減らす新しいサービスを創出できると思います。
KDDI: ICT企業の社会的使命として、電力消費量の見える化で節電意識を高め、朝夕のピークカットやピークシフトに寄与したいというのが原点ですが、お客さまにとっての価値を実感いただけていないのが現状です。国が支援してこうしたシステムを普及させる手法もありますが、ご指摘のようにエネルギーという切り口ではなく、住民相互の密着度が高いコミュニティに注目して、地域固有のコンテンツを提供しながら節電を関連づけるアプローチも重要ですね。例えば、安い使用料で多彩な地域情報やサービスが検索でき、そこでは同じような家族構成の住民がICTを活用して節電している情報も見られる。それなら「自分もやってみよう」となる。そうしてコミュニティから社会全体に広げていくような展開を考える必要があると思います。
ビッグデータを活用して新たな価値の提供を
鈴木: KDDIは、社会性の高いICTインフラ事業に加え、その事業を通じて消費者行動に関する膨大なデータ、いわゆるビッグデータを蓄積しています。それらを活用することで、社会課題の解決につなげるビジネスモデルを創出できる可能性を秘めています。
ソーシャルビジネスの事例をご紹介します。私は、CSR部門の責任者の時に、インドの貧しい農家を支援するBOPビジネス (※) として、イチゴ栽培を水耕栽培で工業化して所得向上を目指すプロジェクトを立ち上げました。そこで描く将来像は、ICT活用によるスマートビレッジ化です。農業の工業化にはエネルギーマネジメントや生産管理、顧客管理が不可欠なので携帯電話網が役立ちます。このターゲットは農村女性に対する就業機会で、女性が所得を得るとそれは子どもの教育や職業訓練に投資される傾向が強いので、それによって遠隔教育などのニーズが高まります。時間はかかりますが、5年先~10年先を考えてICTを活用してインドの農村社会を変えていくソーシャルビジネスに大きな可能性を感じています。
また、アフリカの農村でも急速に携帯電話が普及しています。しかし農村では気象情報が提供されていません。農作物の栽培には、明日が晴れか雨か砂嵐が来るかなどの気象情報が不可欠で、それが分かれば生産性は向上します。そこで携帯基地局のアンテナに気象センサーを付け、集めた気象データを分析して気象を予報し、それを携帯電話網で農民に流すといったアイデアがあります。同じようにKDDIにとっては、全国に数多く設置されている基地局アンテナにセンサー機能を持たせれば様々なビッグデータを収集できます。例えば、気象データのみならず環境データを集めれば環境モニターも可能です。種々のデータを集めて分析・活用することでソーシャルビジネスにつながる新たなサービスが創出できると思います。基地局のアンテナはまさに新しいビジネスの可能性を探るアンテナです。
- ※主に途上国におけるBOP層 (Base of the Economic Pyramid層) を対象に、現地の様々な社会的課題 (水、生活必需品・サービスの提供、貧困削減等) の解決に資することが期待される持続可能なビジネス。
KDDI: 今後のKDDIにとって、ICTインフラやビッグデータを最大限に活用し、新たな価値を提供できる可能性があると思います。また、エネルギーという切り口ではなく、コミュニティへのサービス提供を起点に発想することが結果的に節電を波及させるとのご指摘も新鮮でした。大いに参考にさせていただきます。
リサイクル回収率の向上に注力を
KDDI: 携帯電話には種々の希少金属が使われ、その回収・再利用は環境問題の重要テーマです。しかし、2年前まで回収率は約30%でしたが、スマートフォンの普及に比例して回収率が落ちています。主な要因は、携帯電話からスマートフォンスマートフォンに変更する際に写真や着メロなどが著作権法などの制約を受けてデータ移行が難しい場合があること、携帯電話への愛着、個人情報漏えいへの懸念、廃棄物処分されるという誤解などですが、正しい広報の必要性を実感しています。
小野田: 通信事業会社はリサイクルルートの中で原料供給を担うわけですから役割は大きいです。消費者への啓発と同時に、インセンティブをつけるなどして、継続的に回収率の向上に注力いただきたい。また、回収機器を細かく手分解していますが、容易にリサイクルできるよう機器メーカーに分解性の改善も促し、標準化を進めていただきたいです。
KDDI: 社会課題を自社だけで解決するのではなく、ビジネスパートナーをはじめとした、ステークホルダーとの連携や協働が今後必要になってくると今回改めて感じました。連携や協業を行うためには、今回のような社会との対話が重要ですし、そこで得た色々な気づきを社内でも共有していきたいと考えています。本日はありがとうございました。