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2016年度ステークホルダーダイアログ
マテリアリティ (重要課題) 再特定のためのダイアログ
KDDIでは2008年に「4つのCSR重要課題」を特定し、重点的に取り組みを進めてきました。今回のステークホルダーダイアログでは、2名の有識者をお招きし、国際社会の動向やKDDIグループの環境変化をふまえ、社会とKDDIグループのサステイナブルな発展を目指し、重要課題の見直しに向けた対話を行いました。
出席者
- <有識者>
黒田 かをり氏 一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事
民間企業勤務後、2004年より現職。2010年よりアジア財団のジャパン・ディレクターを兼任。2007年10月よりISO26000策定の日本のNGOエキスパートを務める。持続可能な開発目標推進円卓会議構成員。
- 三友 仁志氏
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
専門は情報通信経済学・政策、情報通信の社会・ビジネスアプリケーション研究、ICTによる社会イノベーション研究。公益財団法人情報通信学会会長、International Telecommunications Society副会長。
- <KDDI>
技術統括本部 運用本部長 奥山
技術統括本部 運用本部 田口
技術統括本部 技術開発本部長 宇佐見
技術統括本部 技術開発本部 米山
CSR担当役員 総務・人事本部長 土橋
コーポレート統括本部 総務・人事本部 総務部長 田中
コーポレート統括本部 総務・人事本部 総務部 CSR・環境推進室長 鳥光
- ※出席者の肩書、役職は、2017年3月末時点
第1部 社会動向の変化を認識し、重要課題を見直す
KDDI: KDDIでは2008年に「4つのCSR重要課題」を特定しました。国際社会の動向や当社グループの環境変化をふまえ、現在見直しの作業を進めています。
黒田: ここ数年の大きな動きとして踏まえておきたいのが「持続可能な開発目標 (SDGs)」です。これは2015年9月の国連持続可能な開発サミットで採択された「我々の世界を変革する: 持続可能な開発・発展のための2030アジェンダ」の中核をなすもので、2030年を目標年とする17目標・169ターゲットから構成されています。2015年までの目標であった「ミレニアム開発目標 (MDGs)」は途上国が主な対象でしたが、SDGsは先進国を含む全ての国に普遍的に適用されるものになっています。
中でも重要なのは、民間セクターの責任に言及していることです。日本でも大企業を中心にSDGsへの関心が高まっており、事業と一体化した取り組みが増えています。日本政府は特に科学技術イノベーションの分野でSDGsに貢献したい考えで、民間企業への期待が今後高まると考えられますが、KDDIにおいても、SDGsはICTによる社会課題解決というイノベーションを起こす鍵になるのではないでしょうか。
KDDI: 当社でもSDGsは大変重要な動きと捉えています。SDGsと事業との接点を検討し、重要課題の中に取り入れていきたいと考えています。
黒田: 重要課題の見直しの際に意識していただきたいのが、アウトサイド・イン・アプローチです。SDGsで推奨されている手法ですが、自社がすでに実施している取り組みをSDGsに当てはめるのではなく、社会的ニーズに基づいて自社が取り組むべきことを検討する方法です。そのようにして具体的なテーマを設定したあとは、3年ごとなど定期的に見直しをすると良いでしょう。
第2部 KDDIに対する社会の期待とは
ICT事業者の役割とICTによる社会課題解決
司会: 社会が変化する中、ICT事業者にはどのような役割が求められるのでしょうか。
三友: ICT事業は、私企業による公的サービスの提供という側面がありますので、ビジネスに公共性を取り込むことが重要です。ただ単独の企業でできることには限りがあり、ネットワークインフラにアプリケーションを加えた総合的なサービスを提供するプラットフォームビジネスで、社会に貢献するのが良いのではないでしょうか。
そのためには、競合他社を含む他のプレイヤーとの連携が、今後ますます重要になるでしょう。
司会: ICTによる社会課題の解決はどのような分野で期待されるのでしょうか。
三友: 地方創生では、離島や中山間地域 (注) など条件不利地域におけるICTの活用が期待されますが、テレワークとWi-Fi整備が目下の課題です。特にテレワークは非常に重要で、地方の人口減少と東京への一極集中を軽減できる可能性があります。KDDI ウェブコミュニケーションズでは、ITサービスを活用して地方創生を推進するプロジェクトを沖縄県内の市町村と始めていますね。今求められているのは、マイナスをゼロにすることではなく、いかにプラスに向上させるか。地域の魅力を発信し豊かな暮らしを実現する、よりプラスの方向へのICT活用に期待したいと思います。また、教育はビジネスに直結しにくい分野ですが、教育にとってICTは明らかに有効なツールですので、取り組みを進めてほしいと思います。医療・介護・ヘルスケアの分野でも今後期待が高まるでしょう。
- ※平野の外縁部から山間地
KDDI: 教育は重要な研究対象で、学力向上にAIでどう貢献するかといったテーマに取り組んでいます。成果を測るまでに時間がかかりますが、着実に続けていきたいと考えています。
医療分野では、KDDI総合研究所が地方での医療サービス提供に試験的に取り組んでおり、たとえば南相馬市立総合病院との連携では、病院に出向けない方の自宅に血圧計等の機器を設置して、遠方から医師がアドバイスする仕組みを作っています。この他、各地で取り組みを行っていますが、分かってきたのが、地域によって求められる内容が異なるということです。各地の実情に合わせて個別に仕組みをつくる難しさはありますが、対応を検討していきます。
黒田: 私はさまざまな障がいの方のニーズに合ったサービスの提供に期待しています。また、言語の面でも、訪日観光客に対しての取り組みをされているようですね。
KDDI: 訪日観光客のタクシー利用に特化し、運転手による観光案内を辞書データやGPS情報を活用して各国語に翻訳する取り組みをしています。現在、鳥取市などで実証実験を行っているところです。ただ忘れてはならないのは、たとえ翻訳が正確でなくてもコミュニケーションがうまく成り立てば、利用者の満足度は高くなるということです。技術者は翻訳精度の向上に注力しがちですが、社会実装を経験して、課題解決につながるのは技術だけではないと実感しており、技術開発と社会課題解決、事業をうまくつなげたいと考えています。
黒田: 確かにICTのみでは解決できないこともありますね。子どもや高齢者の見守りでもICTが果たす役割は大きいですが、地域住民の参加のようなアナログのコミュニケーションも大切で、社外のさまざまなプレイヤーとの連携が鍵になります。
ICT事業者にとっての環境問題
黒田: ICT事業者としては環境も重要課題としてご検討いただきたいテーマです。「KDDI GREEN PLAN 2017-2030」で2030年の目標、特にCO2排出量と資源循環について数値目標を立てた点は素晴らしいと思います。ただ、KDDIとして2030年にどのような社会を期待して、この目標を設定したのか。より明確に示すことができるとなお良いです。そして、2030年までの目標を3年、5年といった短期目標に落とし込んでいくプロセスを見せてほしいと思います。これは環境に限らず、マテリアリティ全体についても同様です。
三友: 通信事業にとって電力使用は必須ですが、エネルギー効率を高め、電力消費を削減する「グリーンICT」の方向に尽力いただきたいです。一方で、ICTを環境問題解決に活用する「ICT for グリーン」という考え方もあります。テレワークも、もともとは通勤を通信で代替することで交通量を減らし、CO2や汚染物質の削減を図る、という「ICT for グリーン」の発想から生まれたものでした。
KDDI:「KDDI GREEN PLAN 2017-2030」の中にも、「ICT for グリーン」「グリーンICT」両方の視点を盛り込んでいます。テレワークは、働き方変革の側面からも進めていかなければなりません。
- ※KDDI補足説明
「KDDI GREEN PLAN 2017-2030」については、2017年度に各年度の目標値を作成し、毎年度、進捗について報告を行い、情報を開示することを検討しています。
三友: CO2削減が求められる一方で、通信サービスを安定的に提供するためには冗長性も必要で、CO2削減を犠牲にする面があります。全体的なバランスを同時に考慮することも大切になります。
災害リスクへの対応
三友: 通信の安定性という点では自然災害への備えも重要ですね。リスクと不確実性を分けて考えるのが良いでしょう。リスクとは発生確率の分布が分かっているもので、「想定外」の事象が不確実性です。リスクへの備えは万全にする一方で、不確実性については、どこまでカバーするのか線引きをするのが良いでしょう。体制さえ整っていれば、たとえ通信が途切れることがあっても、迅速に復旧することができます。
KDDI: 災害時には、運用本部の特別通信対策室が自衛隊や他のキャリアと連携して復旧を指揮します。通信は人命にも関わる重要なインフラですので、改善を続けていきたいと考えています。また、被災者のニーズは発災から時間を追うごとに変わっていくため、時々の状況を鑑みた支援が必要です。熊本地震ではこれまでの反省を活かして、他社と情報共有の上、避難所へのWi-Fi設置を分担して行いました。
データ活用とプライバシー
KDDI: 大規模災害時のビッグデータの活用も課題です。携帯電話から得られる位置情報は状況把握に有効ですので、必要に応じて国や行政等への連携・情報提供も当社の社会的な責任だと思います。ただ、今はユーザーの同意がないと提供できません。ユーザーが個人情報の提供に不安感を持つ要因は、情報の使われ方が分からないことにあります。ユーザー自身がそれを把握できる仕組みをつくれないかと取り組んでいます。
三友: ユーザーの抵抗感はおっしゃるとおりですね。データの使われ方を可視化することで不安が解消し、データ活用も進むのではないでしょうか。
KDDI: 従来は通信事業者が取り組むデータ保護の対象はあくまでデータでした。しかし最近は、データ保護はユーザーの人権を守るためという考え方にシフトしています。セキュリティやプライバシーについても最重要課題として取り上げるべきではないかと思います。
黒田: SDGsでも人権は重要視されていますし、ぜひご検討いただきたいと思います。その際は、取引先にもプライバシー保護を求めているかという、サプライチェーンの視点も取り入れるとなお良いでしょう。
- ※KDDI補足説明
KDDI: KDDIは、CSR調達ガイドラインにおいて、お取引さまに対しても、「個人情報の漏洩防止 (顧客・第三者・自社従業員の個人情報を適切に管理・保護すること)」並びに「顧客・第三者の機密情報の漏洩防止 (顧客や第三者から受領した機密情報を適切に管理・保護すること)」を求めています。
持続可能な調達
黒田: 持続可能な調達は世界的に注目されており、グローバル・サプライチェーンが引き起こす諸問題はG7サミットでも取り上げられる重要な課題です。日本企業は、サプライヤーとのコミュニケーションを大事にしていると言われていますので、今まで以上に進めていただきたいです。持続可能な調達は、モノだけでなく、役務のサプライヤーについても考慮してほしいと思います。
KDDI: お取引先さまには調達ガイドラインを展開し、議論しながら一緒に改善に取り組んでいます。一方で、二次、三次サプライヤーの状況把握と改善には見直しの余地があり、今後の課題です。
ダイバーシティ&インクルージョン
黒田: ダイバーシティ&インクルージョン (D&I) について、非常に努力されていると感じます。ただ、日本企業は、この分野において、とても遅れていることを念頭に置かなければなりません。日本のD&Iは、女性活躍の視点に留まりがちです。御社の場合は障がい者、LGBT、シニア世代も含め幅広く捉えていますが、グローバル展開を進めていく上では、多民族、多宗教の視点も重要です。欧米では、従業員の多様性は経営戦略上プラスになるという考えが2000年頃から主流になっており、戦略としてのD&I推進に期待します。
KDDI: KDDIでは女性活躍の推進を目指して、2008年にダイバーシティ推進室 (2017年4月よりD&I推進室) を設置し、重点課題として取り組んできました。最近では、障がい者やLGBTの方への取り組みを進めており、今後はよりグローバルに広げていきます。また、コーポレート・ガバナンスの視点でも多様性と企業の持続的な成長の関連性が言われていますので、中長期の視点で検討していきたいと思います。
三友: 重要課題の中には、従業員満足の観点も含めてはいかがでしょうか。インフラを支える企業としては、従業員が会社と自身の目標を重ね合わせ、生きがいを持って働いているかという視点は非常に重要です。また、お客さま満足度も検討すると良いと思います。営業方法や窓口の対応は、お客さまと企業との接点として重要で、企業の評価に直結するところです。
KDDI: KDDIフィロソフィに「従業員の物心両面の幸福を追求する」と掲げており、一方、お客さま満足も経営方針として全社で取り組んでいます。従業員とお客さまの満足度はどちらも重要なものですので、重要課題として位置づけて検討していきたいと思います。
おわりに: ステークホルダーと連携し、グローバル企業としてさらなる発展へ
黒田: 課題が複雑化する中、ICTへの期待がますます高まっていますので、ぜひ取り組みを進めていただきたいと思います。社会をより良くしていく上では多様なプレイヤーとともに活動することが重要です。途上国での事業も、地元の政府や組織と協働することで問題が見えてくることもあるでしょう。今後は、さまざまなステークホルダーとの連携に期待しています。
三友: このように、外部からの指摘を受けつつ、自社の活動や将来の方向性を検証する活動をされていることに敬意を表します。通信を巡る環境は日々変化していますが、インフラの重要性は変わることはありません。諸外国のICT事業者はグローバル化を進めていますね。KDDIは素晴らしい技術や営業力をお持ちですから、グローバルな発展に期待しています。
KDDI: 当社はこれまで国内を中心に成長してきましたが、グローバル比率を高めていきたいというのは会社としての方向性です。本日いただいたアドバイスを活かして、重要課題の見直しを進め、社会に貢献できる企業を目指していきたいと思います。どうもありがとうございました。
- ※KDDI補足説明
マテリアリティ (重要課題) の再特定については、今回の有識者からのダイアログを踏まえ検収したものを2017年度のCSR委員会に付議、その後公表する予定です。