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2017年度ステークホルダーダイアログ (人財)
人財をテーマとしたダイアログ
KDDIでは、2018年2月、中央大学大学院経営戦略研究科 (ビジネススクール) 教授 佐藤博樹氏、淑徳大学人文学部表現学科長・教授 野村浩子氏をKDDI本社にお招きし、下記を議題としてステークホルダーダイアログを開催しました。
- 生産性・効率性を向上させ、一人ひとりが働きがいを感じることのできる職場づくりに向けた現状の取り組みに対する評価と今後へのご意見をいただき、更なる働き方改革の推進へとつなげる
- ダイバーシティ&インクルージョンの必要性を再認識し、多様性を価値創造に結びつけるための具体的な示唆を得る
出席者
- <有識者>
中央大学院 経営戦略研究科 (ビジネススクール) 教授 佐藤博樹氏
淑徳大学人文学部表現学科長 教授 野村浩子氏
- <司会・進行>
学会「企業と社会フォーラム」プログラム委員 今津秀紀氏
- <KDDI出席者>
総務・人事本部長 (CSR・環境担当役員) 土橋
総務・人事本部 人事部長 滝山
総務・人事本部 人財開発部長 徳田
総務・人事本部 人事部D&I推進室長 間瀬
経営戦略本部 経営企画部長 明田
総務・人事本部 総務部長 田中
総務・人事本部 総務部 CSR・環境推進室長 鳥光
- ※出席者の肩書、役職は、2018年3月末時点
「働き方改革」の意味と目的
野村: 労働環境の待遇改善を目指す「勤務間インターバル制度」について、いち早く制度を導入した先駆的企業として、御社に話を伺ったことがあります。終業と翌日の勤務開始の間を一定間隔あけることで"休息時間"を確保するこの制度を、健康管理と結びつけ、長時間労働の是正と一体的に取り組んでおり、素晴らしいと感じました。「働き方改革」が社会的に注目されていますが、推進にあたっては各企業にとっての改革の意味を明確にし、経営の視点から繰り返し語っていくことが重要です。
佐藤:「働き方改革」の目的は、残業を減らすことではなく、安易な残業依存体質から抜け出し、生産性を向上させること。その目的を企業と従業員の両方がしっかり理解していることが大切です。健康を害するような過度な残業はもちろんやめるべきですが、残業削減が目的化してしまう職場では、従業員の自主性は生まれません。自己投資や家族との時間など、社員一人ひとりが仕事以外の生活を豊かにするための改革をすることが「働き方改革」であり、その結果、残業が減るのです。「20時退社」は切り口としてはよいと思いますが、2時間残業をすると帰宅時間は21時になり、そこから夕食を始めると、自分の時間をつくるのは難しいでしょう。それであれば毎日2時間残業をするよりも、残業をゼロにする日をつくり、必要な日は4時間残業するなど、自ら工夫して働き方を変えていく改革が必要です。
KDDI: KDDIでは、「働き方改革」を「働き方変革」として取り組みを推進しています。残業時間削減についてもその取り組みの一つですが、これまでは時間外労働が常態化し、残ること自体が評価される面がありました。考え方を変えるための最初の入口としての「20時退社」でしたが、「仕事があるのに…」という声も寄せられており、次のステップに移っていく必要性を感じています。
野村: 1つ指摘しておきたいのが、従業員に「残業するな」とプレッシャーをかける前に、経営はその責任を果たせているでしょうか。より付加価値の高い事業分野にシフトすれば、価格競争や時間資源を投入する競争に巻き込まれないで済みます。また、企業全体の仕事量や質のコントロールも経営の責任です。人手不足が深刻な流通業界には24時間営業廃止を決めるところも出てきましたが、他業界でも過剰労働をやめるための経営判断が必要です。さらには生産性向上のための投資も不可欠です。
佐藤: 今の業務を前提にして生産性を上げて残業を減らせというだけでは、限界があります。必要なことは、業務の削減と生産性向上の両面から取り組むこと。業務をなくしていく決定は、下ではできず、上が決めるしかありません。
KDDI: 2018年4月就任の新社長のもと、新たに2019年度からの次期中期経営計画がスタートしますが、「付加価値の高い事業」がまさにそのキーワードです。新規参入が増える通信業界では、価格競争から顧客にとって付加価値のある事業へのシフトが求められています。社内で12のプロジェクトチームを立ち上げ、コスト削減や生産性向上に向けて「経営の近代化」に取り組んでいます。また重要部門への人員シフトや、アンケート結果を踏まえた生産性向上への投資などにも取り組んでいます。
働き方改革は「コミュニケーション改革」
野村: 働き方改革は「コミュニケーション改革」でもあります。多様な働き方を推進するためには、これまでのコミュニケーションの発想を変えないと実現は不可能です。たとえば業務の達成目標や報告の仕方をルール化し、毎週上司と確認することで1週間を"見える化"する、量と質をコントロールし過剰品質を抑える指示をするなどです。特に、育休などで、目の前に上司や部下、同僚がいないなかで働いている従業員にとっては、コミュニケーションがとても重要です。研修で部下とのコミュニケーションの取り方の好事例を共有するなど、企業としての仕組みづくりを進めないと、結果として個々の管理職が追い詰められることになってしまいます。
佐藤: なぜコミュニケーションが重要かといえば、聞かなければわからないからです。かつては、部下の仕事に対する考え方が自分と同じであると考えても問題なかったのですが、最近では一人一人の状況が変化し、多様な人材が部下になりうる。管理職はそのような変化を理解しなければいけません。
野村: ある子育て中の部下は、先月まで全く残業ができませんでしたが、今月からは夫が単身赴任から帰ってきて長く働ける状態になっているかもしれない。折にふれてのコミュニケーションを通じて個々の環境の変化を把握し、柔軟に対応するきめ細やかな取り組みの積み重ねにより、多様な働き方が実現し、多様な人材が育っていきます。家庭の状況を含め、部下が上司に何でも話せることが重要で、チームの信頼感や安心感など心理的な安全性とパフォーマンスには相関関係があるという研究もあります。
KDDI: 30歳以下の女性を対象としたキャリアセミナーを実施していますが、"多様な部下"の存在を強く感じています。従来の価値観とは全く異なり、仕事だけでなくプライベートもしっかり充実させたいと考えている。互いに完全に理解するのは難しいが、コミュニケーションを積極的に図ることで、業務の効率化やミスの削減につながっているという感覚もあります。
これからの管理職と従業員に求められること
佐藤: 管理職に求められているのは、会社の都合を優先させることではなく、例えば、育休を取得する従業員でも仕事をしやすくなるようにマネジメントをすることです。効率的に業務を推進していくために、もはや要求を一方的に汲み取らせるのではなく、まず"傾聴"して、部下を理解することが大切になっており、企業は管理職に向けた教育にも力を入れるべきです。
また、部下に「残業を減らせ」と促す管理職が、実は一番長時間労働を強いられている現実もあります。会社は「働き方改革」の要素を評価に含め、管理職も含めて数値を管理して取り組んでいくことが重要です。
KDDI: 管理職の残業が非管理職ほどに減っていないという傾向は確かにあります。会社としてもそこを放置せず、解決に向けて取り組んでいく必要性を認識しています。
佐藤: テレワークや在宅ワークといった就業形態の多様化に伴い重要になってくるのは、自己管理ができる力です。自己管理ができない人がテレワークなどの形態を取り入れると、ますます仕事をしてしまう。いつでもどこでも仕事ができるという状況のなか、「20時以降はメールを見ない」「週末は連絡しない」など仕事をしないという決断ができるかどうか。理想は、新入社員には残業ゼロで仕事を覚えさせ、残業していいのは、入社後一年経過してから。日本は入社直後から残業を許容してしまい、所定の労働時間内で仕事をするという訓練を受けていない。「仕事ができない新入社員は時間で貢献しろ」という考え方は間違っています。
自己管理とともに大切なのは、会社に依存せず、従業員が自分自身でキャリアを考えることができるかどうか。そのためには、部下が仕事以外の場所で学ぼうとすることに対し、会社や上司が理解を示すことが重要です。
2030年、「働き方改革」の先に向けて
野村: 先が見通しにくい世界の中では、一人一人が変化に対する柔軟性を持つことが非常に重要です。同時に、企業は単に「自己投資せよ」というだけでは目指すべき方向性がわからない。方向性を示しながら、市場価値も踏まえて社員が自分で考え、自立的にキャリアを更新し続けていくことができる人材を育てていく必要があります。
佐藤: 目の前の仕事はもちろん、5年後、10年後も長く活躍できる人材が求められます。企業の未来が予測できなくなっているからこそ、高い学習意欲と柔軟性、そして好奇心が備わった、自主的に成長する人材を育てることが大切です。
多様な人材に対して方向性を示す上で必要なことは、企業の経営理念を徹底的に浸透させていくこと。合併を繰り返してきた御社はフィロソフィ (経営哲学) を考え続けてきた会社だと思いますが、こうした理念の基本があってこそ、そこから自由な発想が膨らんでいくはずです。
KDDI: フィロソフィの理解と実践を目的に、年2回、全社員向けの勉強会を開催し、部長や本部長も必ず参加するよう義務付けています。徹底して繰り返すことで、皆が共通の認識を持った上で、「通信とライフデザインの融合」への実現に向けて全社的に動いてくことを目指しています。
野村:「人生100年時代」で個々のキャリアも長くなるなか、生涯1社というのはあり得なくなってきています。多様な人材を活用していくためには、従来の日本型終身雇用のような「メンバーシップ型」に、専門性を生かして働く「ジョブ型」をうまく組み込んでいく必要性を感じます。
佐藤: 10年を一単位として、社員にそこから先10年のキャリア形成を考えてもらうような仕組みづくりはどうでしょうか。大切なことは、残って欲しい人材に納得して残ってもらうこと。社内・社外を含めて考える機会を提供した上で、「やはりKDDIがいい」と"納得感"を持って働き続けてもらうことが重要なのです。
KDDI:「働き方変革」に取り組む上で、特に長時間労働の是正に焦点をあててきましたが、今日のダイアログを通じて、「働き方変革」の目的を全社員に徹底して共有することが重要と認識しました。女性や障がい者、LGBTやシニア、子育て中や介護中の方など、多様な人財が安心してフラットに働ける環境づくりを目指して、経営側と現場側が一体となって変革を進めていきます。
野村:「働き方改革」の大合唱の下に、「女性の活躍推進はもう古い」と言い始める企業が出てきていますが、実態は全くもって道半ば。御社には先端を走る企業として、是非手をゆるめることなく推進を続けていただきたいと思います。