CEOメッセージ

KDDI株式会社 
代表取締役社長 
CEO

髙橋 誠

KDDIの企業理念と目指す姿

KDDIの中期経営戦略フレームワークは三角形の図で表されており、そのベースにはKDDIフィロソフィがあります。フィロソフィを構成するひとつの要素として、当社は、「心を高める」~動機善なりや、私心なかりしか~という社是を掲げています。この社是は、企業人である前にまず人間として何が正しいのかを問うものであり、個人の利益や都合で考えるのではなく、その動機が普遍的に良いこと、すなわち善であるかどうかを常に判断基準とすることを示しています。

その上で、当社は企業理念として、「KDDIグループは、全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、お客さまの期待を超える感動をお届けすることにより、豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献します。」と掲げています。この理念の中で最も大切にしているのは、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ことであり、これを最前面に置いているのが当社の特色です。これは、当社を成長に導く従業員がまず幸福であることが重要であり、その上で、お客さまに対し、期待を超える感動やコミュニケーションを通じた豊かな生活をお届けすることが私たちの使命であるという思いが込められています。

中期経営戦略フレームワーク図

私は1984年に京セラに入社後、同年6月に設立された第二電電(DDI)に出向しました。2000年にDDI、KDD、IDOが合併してKDDIが発足し今に至りますが、非常に大きな会社になったと感じています。大企業になってもベースにあるのはベンチャー精神です。これまでKDDIはさまざまな会社と合併してきましたが、それぞれの会社がチャレンジ精神を持って集まっています。多様な会社が合併した上でもベースになるのが企業理念であり、企業理念をもとに心を一つにして前進しようという思いを大事にしています。

私は2018年の社長就任時、自分はKDDIをどのような会社にしたいかと思いを巡らせ、3つの目指す姿を掲げました。それは、「お客さまに一番身近に感じてもらえる会社」「ワクワクを提案し続ける会社」「社会の持続的な成長に貢献する会社」です。

1つ目の「お客さまに一番身近に感じてもらえる会社」には、お客さまの日常生活を支え、継続的にお付き合いいただけるような身近な存在を目指すという思いが込められています。そのために、お客さまから身近な会社だと思っていただけるような工夫を常に考えています。

2つ目の「ワクワクを提案し続ける会社」には、5G通信やAIなどの進化するテクノロジーを活用したサービスを提案することにより、お客さまにワクワクする体験をしてもらいたいという思いが込められています。そのためには、社員にも常にワクワクしていてほしい。商品だけではなく、エンターテインメントやヘルスケア、モビリティなど日常のあらゆる分野で、個々のニーズに合わせてお客さまの体験を変革し、期待を超える感動とワクワクを届けていきます。

3つ目の「社会の持続的成長に貢献する会社」には、パートナーの皆さまとともに取り組むさまざまな事業活動が、企業価値を向上させ、それが社会の持続的な成長につながるという好循環を生み出していきたいという思いが込められています。2018年の社長就任以来、当社はサステナビリティ経営を重視してきましたが、その背景にはこの思いが強く反映されています。

「ワクワク」も「お客さまに身近」も非常に大事だと考えています。お客さまにとって、ワクワクさせてくれる会社というのは素敵な存在だと思うのです。常に新しい提案をしてくれる、未来の最先端に行っているかと思えばとても温かみがある。そんなワクワクを感じてもらえるような会社になりたいという強い思いを持っています。今年、ローソンへの出資を決定したのもお客さまに身近な会社であるための取り組みの一つです。私たちの提供するサービスによって、お客さまから「KDDIは身近なことをやってくれるな」と思っていただけるような会社になれれば、それはとても素敵なことだと思います。

「KDDI VISION 2030」に
込めた思い

企業理念と目指す姿を、2030年に向けたビジョンとしたのが「KDDI VISION 2030」です。このビジョンの策定にあたっては、社員がいくつかのワーキンググループを作り、改めて企業理念や目指す姿について自分事として理解を深め、ボトムアップで考えました。その結果、素晴らしいビジョンが生まれました。

ビジョンの前半、「つなぐチカラを進化させる」は、当社にとって重要なテーマです。私たちは、通信という社会インフラを担うことで、人々の「命」や「暮らし」「心」を「つなぐ」ことを使命としています。私たちはどんな会社であるべきか社員と議論をする中で、若い社員から、命をつなぐことは非常に大事だという意見がありました。通信がなければ、災害時に医療機関との緊急連絡や避難情報を伝達できず、命に関わる事態が生じます。

また、通話だけでなく、私たちのさまざまなサービスが深く関わることによって、暮らしそのものをつないでいきたい。そして、通信を介して人と人の心をつないでいきたい。この「つなぐチカラ」を進化させることは、私たちが取り組むべき使命です。

ビジョンの後半、「誰もが思いを実現できる社会をつくる」には、時代の変化が反映されています。日本の人口は減少していますが、人々の生活における通信の存在感は増しています。通信がクルマや街などあらゆるものに溶け込んできた結果、さまざまな企業による新しいサービスの提供が可能となり、従来のスマートフォンの世界だけではなく、人々の多様なライフスタイルの実現が可能となりました。そこには一人ひとりの思いがあります。そんな社会における私たちの役割は、すべての人が思いを実現できる社会をつくることです。この思いが2030年ビジョンの根幹にあります。
KDDI VISION 2030のメッセージは、プレゼンテーション資料の終わりに必ず添えるようにしており、社内外に浸透してきていると思います。

つなぐチカラの進化」を私たちの使命として痛感したことがあります。それは、KDDI VISION 2030の公表の2カ月後、2022年7月に起こしてしまった大規模通信障害です。さまざまな反省をする中で、私たちはつなぐチカラを進化させていかなければならない、このような障害を二度と起こしてはならないという強い思いを全従業員が持つことになりました。私たちがつなぐチカラを進化させることがこれからの社会への貢献につながるという思いを新たにした、大きな経験です。

つなぐチカラ×AI時代へ 
~KDDIグループの社会的存在意義~

当社は「パートナーとともにデジタルツインを推進し、新たな価値を創出する」と掲げています。まず、「パートナーとともに」が非常に重要です。KDDIフィロソフィには「利他の心」、つまり他者を利する心が根底にあります。
パートナーを最優先に考える姿勢がなければ、相手からもパートナーとして選ばれません。パートナリングは今後も大事にしていきたいと考えています。

パートナリングにより推進するデジタルツインとは、リアルの世界をデジタル空間で再現し、データで可視化することによってシミュレーションする技術です。例えば、データで可視化された街の人流をデジタル空間に取り込み、人々の動きをシミュレーションすることで、これまで事前に察知できなかった課題を予測できます。具体的には、災害発生時における人々の行動を予測することで、最適な避難経路を導き出し、特別な状況下における人流のボトルネックとなる構造が把握できるようになります。これがデジタルツインです。

コロナ禍を経て、全てがインターネットに移行するのではなく、やはりリアルも大事だと実感しました。リアルの世界をデータで可視化し、シミュレーションすることで未来社会を予測し、その結果リアルの世界がより良いものになる好循環がデジタルツインです。通信会社であるKDDIはそれを実現しやすい立場にあり、さまざまなパートナーとともに実現していきます。

時代とともに変化し続け、未来を創造する事業戦略「新サテライトグロース戦略」

元来、私は新規事業を作ることが好きで、これまで新しい事業を始める際の大きなテーマは、既存事業と新規事業の融合でした。既存事業と新規事業の両方を重視する「両利きの経営」方針を打ち出しましたが、既存事業と新規事業が分離して見えるという声がありました。そこで、既存事業の周囲に新規事業を定義して連携をより意識できるようにと考えたのが、新サテライトグロース戦略です。

新サテライトグロース戦略では、事業のベースとなる5G通信に今後の基盤となる生成AI、データドリブンを追加してコアとし、その周りに第1軌道(Orbit1)と第2軌道(Orbit2)を配置しています。Orbit1には成長が確実な分野としてDX、金融、エネルギーを、Orbit2にはモビリティやヘルスケアなどを次なる成長領域として設定しました。Orbit2の領域は、事業の成熟度に応じてOrbit1へ組み込むとともに、新たな事業機会に応じて柔軟に入れ替えを行う方針です。

この新サテライトグロース戦略には3つの柱となる未来への取り組みがあります。
1つ目は「To Global(グローバルへの拡大)」です。日本の人口が減少する中、グローバルへの展開は不可欠です。
2つ目に「With Life(もっとお客さまに身近な会社へ)」です。目指す姿として掲げた「もっと身近に」を実現するため、地域共創事業の推進などにより、お客さま接点の強化を図ります。
3つ目は「For Future(未来人財・スタートアップ育成)」です。スタートアップ企業だけでなく、未来を担う若い人たちの育成と支援を行います。
これが新サテライトグロース戦略の全体像です。

ローソンとの協業による新たな付加価値創出

当社は2024年2月、三菱商事・ローソンとの資本業務提携を発表しました。通信のつなぐチカラは、小売業界のさらなる成長促進に貢献できると確信しています。例えば、私たちの持つ通信技術を活かしたリテールテックにより、コンビニの棚の陳列へのロボット導入や、シームレスな決済が可能となります。また、クイックコマースで商品を最短15分で届けるなど、新しいことも次々に実現できるでしょう。デジタル技術を駆使して、今日来店してくれたお客さまが明日も明後日も来店してくださるようなワクワクするリアルテックコンビニを実現できると考えています。この協業により、ローソンのさらなる成長に貢献していきます。

また、当社の通信サービスを利用いただいている「au」「UQ mobile」「povo」のお客さまにとっても、ローソンとの協業は新しい体験をお届けする契機になると思います。これまで通信サービスと動画などのコンテンツ、金融サービス、エネルギーサービスなどを組み合わせ、お客さまに身近なさまざまなサービスを提供してまいりました。これに加えて、今後は、auユーザーがローソンを訪れると特別な体験ができるような施策を導入することで、お客さまにより一層ワクワクしていただきたいと考えています。

社内では、ローソンとの新規事業に関する多くのワーキンググループが立ち上がっています。当社の従業員には、スマートフォンの販売にとどまらず、お客さまに向けた新たなサービスを次々と生み出す情熱があります。ローソンとの協業は、お客さまに当社を身近に感じてもらい、ワクワクする気持ちをお届けする新たな可能性が広がる投資と確信しています。この取り組みが皆さまに認められるよう、社員一同、全力を尽くしてまいります。

企業経営を横串で管理する、
チーフオフィサー体制の強化

本年4月から新たにCDO、CSOを加え、チーフオフィサー体制をより強化しました。会社が大きくなると業務が縦割りになりがちですが、チーフオフィサーはそこに横串を刺すための存在だと考えています。

例えば、私はCEOとして日々上申されるさまざまな案件に対し、他の案件と一緒に推進すればより大きな成果が得られるのではないかと言える立場です。CDOは生成AIが台頭するこれからの時代において、会社として最大の成果を実現するための取り組みを検討する重要な役割を担います。同様に、CSOは戦略面で、CTOは技術面で、CFOは採算面での横串の役割に期待しています。

各チーフオフィサーとともに、社会課題や競争環境の変化に対応し、KDDI VISION 2030の実現に向けて取り組んでまいります。