「KDDI SUMMIT 2024」オープニング基調講演
KDDI×OpenAIが語る生成AIのソーシャルインパクト
生成AIは瞬く間に進化と拡張を続け、さまざまな産業に大きな変化をもたらそうとしています。少子高齢化に伴う労働人口の不足など社会課題に直面する日本で、生成AIとどのように向き合えば、ピンチをチャンスに変えられるのか。「KDDI SUMMIT 2024」オープニング基調講演で、代表取締役社長 CEOの髙橋 誠が、生成AIと未来に向けたKDDIの取り組みについて話しました。
基調講演の後半では、生成AIの基幹となる大規模言語モデルを開発する、OpenAI Japan 合同会社 代表執行役社長の長﨑忠雄氏をゲストに迎え、通信とAIによって生み出されるソーシャルインパクトについて語り合いました。
目次
いち早く高齢化社会と向き合う
日本のアドバンテージ
基調講演の冒頭、髙橋が語ったのは、ネガティブに語られがちな高齢化社会を迎える日本の現状に、チャンスがあるということ。日本が課題を克服すれば、世界に新たな価値をもたらせるのではないか――そう語る髙橋は、KDDI自身が課題を克服して成長を遂げるなかで古くはCDMAという通信方式、直近では衛星通信の「Starlink」と、世界標準を取り入れたことに触れ、「グローバルスタンダードをいち早く取り入れ、その上に日本の価値をしっかりと根付かせ、またグローバルに勝負していく。これが、これからの日本の姿」と続けます。
今、まさにKDDIが取り組む「グローバルスタンダード」は生成AIです。
たとえば、労働力人口の減少、カーボンニュートラルと電力の効率化、IoTとAI、AIと通信の組み合わせなど、視点を変えれば世界最先端の事例になる可能性があり、髙橋は、日本らしい付加価値に向け、パートナーとともに未来を共創したいと語ります。
環境変化に対応し成長する
「新サテライトグロース戦略」
KDDIでは、2024年5月、「新サテライトグロース戦略」を策定しました。5G通信をベースにデータドリブンと生成AIを進めるコア事業を“太陽”に見立て、「DX」「金融」「エネルギー」の各成長領域に注力します。さらに、「モビリティ」「宇宙」「ヘルスケア」「Web3・メタバース」「スポーツ・エンタメ」にも取り組みます。
コア事業である通信では、Sub6と呼ばれる周波数の5G向け基地局が業界最多の3.9万局に到達。衛星ブロードバンド「Starlink」で年内にもスマートフォンとの直接通信を実現させる計画があります。髙橋は「通信に対しては、きっちり一番を取りにいきたい」と意気込みます。
成長領域のDXでは、AIビジネスプラットフォームの「WAKONX (ワコンクロス)」を提供。この名称もまた日本独自の価値を示すもので、髙橋はモビリティ、リテール、ロジスティクスなどで業界特化型LLMを提供する方針をあらためて紹介しました。
コア事業の通信、そして成長領域でのWAKONXと、いずれも生成AIを活用するKDDI。その基盤に多摩と小山のデータセンターが用意され、さらにシャープ堺工場跡地にAIデータセンターを検討中です。また、全国8拠点に、通信網を生かした低遅延・分散計算基盤を整備しています。
「生成AIというと“クラウドでGPU”です。多くの電力を使い、処理能力も相当高い。ただ、AIをエッジサイドにすれば、低遅延や分散計算を実現できます。特化型のLLMにすれば、規模や消費電力を小さくできる。AIをクラウドだけでなくエッジ、それからオンデバイスと、どう活用するか整理していきます」。
生成AIがハイブリッドで処理されるようになると、「今後大きく変わるのがユーザー接点」とする髙橋は、ここにも新たな機会があると言います。たとえば、国内最大規模のコンタクトセンターを運営するアルティウスリンクに向け、KDDIグループに加わったELYZAによる日本語LLMが導入されており「コンタクトセンターでの利用→業務特化型LLMの開発・改善」という循環を進めることに、いち早く着手しています。
ソーシャルにインパクトをもたらす
未来への取り組み
髙橋は、「フィーチャーフォンの頃、我々はお客さまとの接点をしっかり持っていた。スマートフォン時代になると、どんどんグローバルな方へ流れていった。お客さまとの接点をもう一度取り戻したいと、ずっと思っていました。もっと、お客さまに身近な会社になりたい。そこでローソンです」と語ります。
ローソンが掲げる「ローソン・タウン構想」では、ローソンを街の中心に位置づけられます。リテールテックと呼ばれる新たな取り組みの導入が進められる予定で、それは、省人化や次世代モビリティ、買い物難民の救済、災害時のStarlinkの活用、再生可能エネルギー、カーボンニュートラルといったキーワードで語られるもの。たとえば、ローソン店舗を含む全国1,000カ所にドローンのステーションを置けば、災害などが起きても、10分以内に現場へドローンが駆けつけることも実現できます。
「ローソンとの取り組みを発表した後、心に残ったのが、ソーシャルインパクトがあるということ。たとえばスタートアップが事業をやるとき、大きな判断基準になるのは、収益性の高さよりも、社会にどこまでインパクトをもたらせるかという点です。我々でいえばローソン・タウン構想。これからの高齢化社会、地方の課題に向け、ローソンにKDDIの力を加えれば、ソーシャルにインパクトを起こせるのではないかと」
「あらゆるシーンに通信、AIが溶け込んで新たな価値が生まれる時代。グローバルスタンダードをいち早く取り入れ、日本らしいバリューを載せられる。高齢化社会を迎える日本ですが、ネガティブなバイアスを払いのけ、AIで付加価値を生んでソーシャルにインパクトをもたらす。それがグローバルに対する、これからの我々のベクトルではないか」と、基調講演の前半を締めくくりました。
ベールに包まれたOpenAIが
日本にもたらすものとは?
基調講演の後半では、OpenAI Japan 合同会社 代表執行役社長の長﨑忠雄氏がゲストとして登壇し、髙橋とともに、通信とAIによって生み出されるソーシャルインパクトの可能性について語りました。
長﨑氏によれば「ChatGPT」のウィークリーなアクティブユーザーはすでに2億人を超え(2024年8月時点)、今も増え続けています。OpenAIの最新AI基幹モデルである「GPT-4o」では、音声、画像、動画などマルチモーダルにも対応しています。
そんなOpenAIが、アジア初の拠点として日本に2024年4月、OpenAI Japan 合同会社を設立しました。
この背景に長﨑氏は、日本が世界第4位の経済大国であり、イノベーションなどに貪欲であり、少子高齢化などの社会課題へ他社よりも早く対応せざるをえない環境であることがOpenAIのミッション「世界人類がAIを使うことでより良い社会を作りたい」と日本の相性が良いことを挙げます。
これまでOpenAIにはベールに包まれているイメージがあったと話す髙橋に、長﨑氏は「OpenAIはミッションドリブンで、AIのことだけを考えています。AIが世の中に正しくインパクトを与えられるようにしたい。そこで日本法人という対話をする窓口を開きました」と応じました。
AI×クラウド、エッジ、
オンデバイスの今後
髙橋はAIが今やクラウドだけでなく、エッジ、オンデバイスへと広がっていることに触れ、こうしたトレンドへの見解を問うと、長﨑氏は「今はフロンティアモデルをひたすら改善していく途上」としつつ、「コネクティッドカーやIoTなどエッジ側にパワーを持たせることも必要になるのではないか。エッジやデバイスは、閉じられた世界で非常にセキュアだが、処理能力に限りはある。これから新たなバランスや事例が生まれるかもしれない。テクノロジーはイノベーションの連続。1~2年以内に想像もしていないイノベーションが生まれてくるでしょう」と応じました。
AI×コンビニで顧客体験は
どう変わるのか
次に髙橋から、コンビニにおけるAIの活用について問われた長﨑氏は、「めちゃくちゃいい。消費者にとっては、ストレスフリーにどんどん近づく。すでにコンビニでいろんなサービスを受けられるが、今は機器の操作も必要だし、店員も覚えることが多い。でもAIで新しい顧客体験を提供できる」と話し、さらに在庫管理、顧客分析、マーケティングなども「ガラッと変わってくると思います」と続けました。
お客さまとの接点という面におけるAIの活用など「実は通信とコンビニは違うようで共通点も多い」と話す髙橋に、長﨑氏はインバウンドや多様性への対応が必要であり、言語の壁を越えられる生成AIが世界を変え、受け入れられていくとの見方を示しました。
5Gのその先は6Gではない!?
通信×AIの可能性
グローバルでは「5Gの次は6Gではなく、AIだ」という声も増えており、「AIを前提にすると5Gの進化はどうなるかという議論が、これからグローバルでは始まるのではないか」と、髙橋は言います。
通信に対するAIへの期待に、長﨑氏は「デバイスに語りかけても遅延がなくプライベートなことにも応えられる。デバイスでは解決できない複雑なことも、通信の高速化によって実現できる可能性がある」と語ります。
通信×AIの進化の先には「ワオという驚きのある顧客体験を実現できる」と予想する長﨑氏は、だからこそ、AIを少しでも早く使ったほうがいいと伝えたいと聴衆に語りかけました。
「AIの旅路はまだ始まったばかりですが、今後飛躍的に進化を遂げます。AIと一緒に生活することで日々が豊かになるだけではなく、直面するさまざまな社会課題も解決できると思っています。ただ、それは我々一社ではできません」と語り、KDDIを含むパートナーとの連携の重要性をあらためて強調しました。髙橋もこれに応え、ジャパニーズバリューをしっかり活用できるよう、ともに取り組んでいきたいと思いを語りました。