通信とAIの類似性から見える「AIによって拡がる事業の可能性」

急速に進化を遂げるAI。始まったばかりのものではありますが、AIエージェントや生成AIによって、世界は大きく躍進しようとしているタイミングとも言えます。

我々KDDIは、通信によって社会に利便性をもたらしてきた自負があります。現代の日本は、少子高齢化など、社会課題先進国とも言われていますが、通信とAIを組み合わせることで、これらの解決を加速できると考えています。

「KDDI SUMMIT 2024」で、取締役執行役員常務 CDO 先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長の松田浩路が、通信とAIの類似性から、AIによって飛躍的に拡がる事業の可能性について講演しました。

目次

  1. 1全国どこでも通信できる時代へ
  2. 2通信もAIも「一気通貫」でニーズに対応できるのがKDDIの強み
  3. 3AIの進化で変革が起きるサービスとは
  4. 4AIによるリスクにも目を向ける時代
  5. 5Weights & Biases Japanシバタ氏が唱える3つのAI戦略

全国どこでも通信できる時代へ

3G、4G、5Gと通信技術が進化していくのに合わせ、お客さまユーザーが使うデータ通信量は大幅に増えています。さらにはゲームや動画視聴、低レイテンシーの実現が、快適な体験に必要不可欠です。

KDDIは、「日常をつなぐ」「非日常をつなぐ」「空が見えればどこでもつながる」の3つ軸を掲げ、お客さまの生活動線を中心にエリアを構築し5G(Sub6)基地局数で国内No.1、山小屋や音楽フェスなどのつながりにくい場所の対策を進めています。2024年内には、Starlinkでの直接通信サービス開始を目指し、日本のどこにいても、空が見えればつながるように対応を進めています。

松田は、「通信とAIには類似性があり、それぞれアクセルを踏んで進化していく攻めの部分と、ガードレール的な守りの部分が必要です」と指摘します。

たとえば、建設現場でStarlinkを活用し、auの通信エリア化を実現した取り組みも、攻めの部分の一例です。これにより、トンネル坑内からの緊急通報を可能とするなど、現場の作業員の方のES(従業員満足度)面にも貢献することができます。

一方で、守りの部分は、地味ながら着実に取り組まねばなりません。物が通信するIoTに対して、サイバー攻撃への懸念を指摘する声もありました。

KDDIでは、攻めと守りのバランスをとって、工夫を重ねながら通信事業を展開してきたのです。

通信もAIも「一気通貫」でニーズに
対応できるのがKDDIの強み

社会インフラとなった通信事業は、さまざまなアプリケーションを支えます。いわば、KDDIはプラットフォーマーであり、松田は「AIサービスを垂直統合で手掛けることもまた同じ構造」と解説しました。

「AIは、根幹に大規模計算基盤があって、その上にLLM(大規模言語モデル)がある。さらに上に、お客さまに使ってもらえるアプリケーションがあります。4Gや5Gの基盤を作り、その上にスマートフォン端末を普及させる、さらにその上に、開発者の方々に集まってもらいアプリケーションが登場するという、通信の構造と類似性があると思っています」

KDDIでは、助成金も活用しながら、中長期で1,000億円規模の生成AI基盤に向けた設備投資を進めます。また、シャープの堺工場跡地に、大規模なAIデータセンターの構築も検討中です。LLMの構築は、新たにKDDIグループとなったスタートアップである株式会社ELYZAと提携。オープンモデルをベースとして、領域特化型の日本語LLMの開発が進められています。また、NICT(情報通信研究機構)でもこれまでLLMの研究開発を行っており、KDDIはその周辺技術として、ハルシネーションの抑制や、マルチモーダルに取り組んでいます。

AIの進化で変革が起きるサービスとは

生成AI基盤の構造を大きく分けると、ユーザーの手元にある「エッジデバイス」、通信ネットワーク上にある「ネットワークエッジ」、さらにその先にある「クラウド」の3つに分けられます。エッジになればなるほど、リアルタイム性が高くなります 。

松田は、最適なAIの提供に向けて「我々の高品質で超高速なネットワークの環境とエッジデバイス、ネットワークエッジ、クラウドを組み合わせることで、シームレスに、高速なAIの提供環境が作れる」と見通します。

では、AIによってどのような変革が起こせるのか、松田は続けます。

「AIで変革できる動きとして、iPhoneとAndroidで、RCS方式でメッセージのやり取りができるようになります。メッセージサービスはプライバシーが大切であり、プライバシーを重視したAIメッセージサービスを展開したい。たとえば、お客さまがauオンラインショップとやり取り場面では、AIが万能コンシェルジュとして提案してくれるなど、多面的な情報収集ができるUIができるという期待もあります」

お客さまの接点だけではなく、モビリティにも変革の可能性がある、と松田は続けます。

一例として挙げられたドローンでは、周囲に何があるのか学習する必要がありますが、膨大なデータをドローンに格納しつつ、内蔵するAIチップで、パターンを解析して障害物を回避できるようにします。さらに、ドローンが取得したデータをネットワーク側に戻して、学習を深めるわけです。

マルチモーダルをネットワーク運用に活用することで、スキルや経験があまりない人でもAIによる支援を受けて被疑箇所の特定や復旧対応が可能になる、という未来像も紹介されました。

AIによるリスクにも目を向ける時代

通信と同じく、AIでも「サービスの変革を進める攻め」の一方で、「リスクからの守り」に目を向ける必要があります。

松田は、一般的にAIには技術的リスクと社会的リスクがあり、プライバシーや著作権、財産権、ハルシネーションへの懸念から、AIの導入に二の足を踏んでいる人もいると説明した上で、権利の侵害やなりすましなどには国と協力して対策を進めるなど、安心・安全なAIを目指す方針をあらためて紹介し、KDDIとして不安を取り除き、導入企業に寄り添いながらAIの上手な活用を進めるとしました。

Weights & Biases Japanシバタ氏が
唱える3つのAI戦略

講演には、AIエンジニアのための開発・運用プラットフォームを提供するWeights & Biases Japanでカントリー マネージャーを務めるシバタアキラ氏にもご登壇いただき、AIとの向き合い方について語っていただきました。シバタ氏は、3つのAI戦略が大事だと話します。

1つ目は、乗り遅れないこと。現時点で、すぐに試せるアプリケーションがあり、どう活用し、どう生産性を上げるかという点は、最低限取り組むべきと説きます。

2つ目は、技術リーダーシップ戦略です。多くのデータと処理基盤(GPU)を使い、大規模な生成AIモデルを自社で開発すること――ですが、莫大な資本と技術人材が必要であり、ほとんどの企業では、この戦略を成立させるのは、難しいかもしれません。

とはいえ、誰かがAIを独占している状態は危険です。また、日本語や日本のユーザーに即した特徴を持つAIを安定して提供することも重要です。

そこで3つ目の戦略として紹介されたのが、特化カスタマイズ戦略です。今ある技術を、自分たちの目的のためにカスタマイズして使うというもの。シバタ氏は「特化された用途にチューニングされれば、その用途では汎用的なモデルに勝る性能を得られます。これが、投資対効果が大きくなる可能性のある重要な戦略ではないか」と述べます 。

講演の最後に行われたシバタ氏と松田の対談では、「AIは新しい発見からプロダクトになるまでが早く、何が重要な発見なのかを見極める力も必要」とシバタ氏。松田は、「通信で攻めと守りがあったように、AIにおいても、基盤を作るし、LLMも準備をする。その上のプラットフォームで、色々と運用してもらえる環境を作りながら、リスクへの対応や、投資を正当化するためのサポートに努めていきたい」と残しています。

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